研究領域 | 染色体オーケストレーションシステム |
研究課題/領域番号 |
15H05971
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
平野 達也 国立研究開発法人理化学研究所, 平野染色体ダイナミクス研究室, 主任研究員 (50212171)
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研究分担者 |
大杉 美穂 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (00332586)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 細胞生物学 / 生化学 / ゲノム / 染色体 / 細胞分裂 |
研究実績の概要 |
(1)染色体の完全再構成系の確立:これまでにカエル精子核と6種類の精製タンパク質因子とインキュベートすることにより分裂期染色分体を試験管内で再構成することに成功した(Shintomi et al, 2015, NCB)。ここで使用している6種類の因子うち、コンデンシンIのみがカエル卵中でリン酸化が施された天然型(非組換え型)タンパク質であった。これを組換え型のコンデンシンIで置き換えるためには、適切なCdk-cyclinキナーゼを調整して組換え型複合体をリン酸化し、それを活性型に変換しなければならない。H27年度は、ヒトデ卵由来のCdk1-cyclin Bと組換え型Cdk2-cyclin Aの調整を行った。しかし、材料とするヒトデの採集が気象異常により困難であったため、このプロジェクトに約3ヶ月の遅延が生じる結果となった。また、組換え型のコンデンシンIの精製法を改良して、より純度の高い分画を得ることに成功した。 (2)cross-species実験による解析:カエルの精子形成の過程において、ヒストンH3-H4は失われるが、H2A-H2Bは失われない。一方、マウスの精子形成の過程において、ほぼすべてのコアヒストンを失う。H27年度は、マウス精子核をカエル卵抽出液に導入すると、カエル精子核を基質とした場合とよく似た単一染色分体が形成されることを見出した。最終産物のタンパク質組成もカエル精子核由来のそれによく一致していた。さらに驚いたことに、ヒストンH3-H4のシャペロンAsf1を除去した抽出液とマウス精子核をインキュベートすると、ヌクレオソーム形成はほぼ完全に阻害にもかかわらず、染色分体に似た構造が形成されることがわかった。この構造では、コンデンシンはその中心軸に濃縮していたが、クロマチンループの組織化に異常があった。一方、カエル精子核をマウス卵に導入すると、カエル精子核はマウス精子核と同様に前核形成をおこなったが、次の有糸分裂において分離異常を示すことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)染色体の完全再構成系の確立:活性を有する組換え型複合体の調整に向けて充分な材料が整いつつある。気象異常により優良なヒトデの採集が遅れるという問題に直面したものの、研究計画は全体に順調に進展しているといってよい。 (2)cross-species実験による解析:ヌクレオソーム形成を完全に阻害した条件下では、染色体形成は起こらないものと予想していたが、異常ながらも大変特徴的な染色体様構造が作られることがわかった。これは大変驚くべき観察であり、潜在的には多くの教科書に掲載されている染色体構築の階層性モデルを書き換える可能性もある。
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今後の研究の推進方策 |
(1)染色体の完全再構成系の確立:活性を有する組換え型複合体の調整に向けて充分な材料が整いつつあるので、計画通りに進めていく。 (2)cross-species実験による解析:ヌクレオソーム形成を阻害した条件下においても染色体様構造が構築されるという驚くべき観察を受け、この観察をより精密に実証していくための実験を組む。現行の条件下でヌクレオソーム形成はどの程度阻害されているのかを確認するための生化学的・細胞生物学的な解析を進める。また、ヌクレオソームを持たない染色体様構造がどの程度安定なものなのか各種機能実験を通して検定していく。
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