計画研究
染色体が調和して機能する仕組みを染色体オーケストレーションシステム(染色体OS) と呼び、精子、卵子などの配偶子形成に必須な減数分裂期のゲノムは染色体OSがより劇的に変化する場である。減数分裂期では染色体3D構造が大きく変化するだけでなく、染色体場で組換えなどの様々なDNA代謝反応が“制御された形”で起き、その制御プラットフォームが染色体OSであると考えられる。本計画研究は減数分裂期染色体を染色体OSのモデル系として捉え、減数分裂期染色体構造、特にその基盤となる軸―ループ構造の構造を理解し、減数分裂期特異的染色体上で起きる減数分裂期組換えの制御の分子メカニズムを明らかにすることを目的とする。27年度から延長した研究計画では、新たにバージョンアップした蛍光顕微鏡を用いて、減数分裂期の染色体構造、特に高次構造(軸―ループ構造)を明らかにし、染色体構造とその上で起こる組換えの連携の分子メカニズムを解明することを目標とした。減数分裂期染色体の軸構成要素であるコヒーシンの動態を中心にその局在の変化と、3C(Hi-C)法(A02班白髭/伊藤との連携)などのゲノムワイド構造解析方法を用いて、構造変換に関して解析を行っている。これまで減数分裂期の軸構成要素のコヒーシン複合体が分裂期の切断とは異なるー切断に依存しない仕組みで、染色体から解離すること、その解離には特異的なリン酸化酵素Polo-likeキナーゼ(PLK)が必要であること、その際に染色体がコンパクトに構造変換をすることを明らかにした。染色体構造変換に関しての新しいメカニズムを提示できる可能性がある成果と言える。
2: おおむね順調に進展している
これまで減数分裂期の軸構成要素のコヒーシンの減数分裂期の動態を、特に分裂期に切断を受け染色体から解離する、減数分裂期特異的構成要素Rec8に着目して、蛍光染色法を使い、その局在を解析してきた。その結果、Rec8を含むコヒーシンが減数分裂期第1分裂期後期に、その切断なしにその局在を変化させることを見出した。この変化は、Rec8を含むコヒーシン複合体そのものの染色体からの解離であり、その解離にはRec8の切断を伴わない可能性が高い。このコヒーシン分子の局在の変化、Rec8の解離、にはPolo-likeキナーゼ(PLK)が必要であることも分かった。PLK により、Rec8はすでにリン酸化されることが報告されている。これらRec8のリン酸化が、切断に非依存的なコヒーシンの解離を促進させると考えている。従来はRec8のリン酸化は切断を促進すると考えられてきたが、その仮説とは異なる機能を持つことが予想できる。また、Polo-likeキナーゼ(PLK)依存的に、減数分裂期第1分裂期後期染色体が凝縮することも見出した。コヒーシンの局在変化との相関から、この2つの事象が連携している可能性が高い。
PLKによるRec8のリン酸化がコヒーシンの解離に必要かどうかをリン酸化サイトのrec8変異体を作成して、染色体でのコヒーシンの局在を解析することで検証する。また、減数分裂期のRec8コヒーシンの局在は従来型の蛍光顕微鏡ではなく、超高解像度蛍光顕微鏡を用いた方がより精密な局在解析ができることが期待できる。そのため、超高解像度蛍光顕微鏡の1つ3D-SIMで染色体構造を解析している、スイスFMI研究所Gasser教授との共同研究を考えている。これまで、領域内の共同研究として、3C(Hi-C)法(A02班白髭/伊藤との連携)などのゲノムワイド構造解析方法を用いつつあるが、減数分裂期の染色体のコンパートメント構造を明らかにする解析を継続している。そこで得られた情報をもとに、上記のコヒーシンを主として染色体局在情報を合わせることで、染色体OSのモデルとしての減数分裂期染色体の3D構造の構築を目指す。さらに、別な角度からの染色体構造情報を得るため、クロマチン免疫沈降~シークエンス (ChIP-seq) 法を実施する。対象としては特に研究室で準備した抗Rec8抗体を用いたRec8コヒーシンを考えている。動的変化を見るためには、時間毎のRec8コヒーシンのゲノム上の分布の変化を見るために必要があるが、この際にはインターナルコントロールが重要になる。最近、オーストリア、ウィーン大学のKlein教授が開発した方法を用いることで、時間ごとの局在の変化を比較できるため、Klein教授との共同研究を申し込むことも予定している。将来的には動的変化を記載した後は、そのような動的な変化が染色体機能にどのような影響を与えるかも同時に解析することも予定している。
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すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 5件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 5件、 招待講演 5件) 備考 (2件)
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