研究領域 | 染色体オーケストレーションシステム |
研究課題/領域番号 |
15H05973
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
篠原 彰 大阪大学, 蛋白質研究所, 教授 (00252578)
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研究分担者 |
篠原 美紀 近畿大学, 農学部, 教授 (80335687)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 染色体OS / 減数分裂 / 染色体 / コヒーシン / 組換え / キアズマ / Rec8 |
研究実績の概要 |
染色体が調和して機能する仕組みを染色体オーケストレーションシステム(染色体OS) と呼び、精子、卵子などの配偶子形成に必須な減数分裂では染色体OSがより劇的に変化する。減数分裂期には染色体3D構造が大きく変化するだけでなく、染色体を場として組換えなどの様々なDNA代謝反応が“制御された形”で起き、その制御プラットフォームが染色体OSであると考えられる。本計画研究は減数分裂期染色体を染色体OSのモデル系として捉え、減数分裂期染色体構造、特にその基盤となる染色体軸―ループ構造と機能を理解し、減数分裂期特異的染色体上で起きる減数分裂期組換えの制御の分子メニズムを明らかにすることを目的とする。2018年度では、染色体構造とその上で起こる組換えの連携の分子メカニズムを解明することを目標とし、超解像度蛍光顕微鏡を使用して、減数分裂期の染色体構造、特に高次構造(軸―ループ構造)を、減数分裂期染色体の軸構成要素であるコヒーシンの局在を解析した結果、減数第一、第二分裂期に起こる切断とは異なる、切断に依存しない仕組みで、コヒーシン複合体が染色体から減数分裂第1分裂後期で解離すること、その解離には特異的なリン酸化酵素Polo-likeキナーゼ(PLK)が必要であることに加えて、Dbf4依存性Cdc7キナーゼ(DDK)が必要であり、この2つのキナーゼの協調的は働きにより、コヒーシン制御因子の1つWAPL(Rad61)とRec8がリン酸化されることが、この解離に必要であることを見出した。また、この切断非依存性のコヒーシンの解離に伴い、染色体がコンパクトに凝集する構造変換が起こることも分かった。この染色体構造変換は、染色体分配に必須のキアズマ(相同組換え)形成と関連すると考えられる。減数分裂期の染色体構造形成に関しての新しいメカニズムを提示できる可能性が高い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで減数分裂期の軸構成要素のコヒーシンの減数分裂期の動態を、減数分裂期特異的コヒーシン構成要素Rec8に着目して、その局在を超解像度の蛍光顕微鏡を中心に解析してきた。その結果、Rec8を含むコヒーシンが減数分裂期第1分裂期後期に、Rec8の切断受けずに、染色体から解離することを見出した。減数分裂期では染色体腕部のコヒーシンは保護されていると信じられてきており、一見矛盾するコヒーシンの染色体腕部からの解離が起こることが分かった。つまり、減数分裂期のコヒーシンの解離は、第1、第2分裂の切断による解離の前に新しい解離過程があり、これまで提唱されてきた2段階ではなく、3段階がある新しいモデルを提示した。Rec8を含むコヒーシン複合体の解離を促進する因子として、Polo-likeキナーゼ(PLK)とDbf4依存性Cdc7キナーゼ(DDK)を同定できた。PLK とDDKにより、Rec8とコヒーシン制御因子Rad61/WAPLがリン酸化を受けることが、切断に非依存的なコヒーシンの解離を促進させると考えている。従来はRec8のリン酸化は切断を促進すると考えられてきたが、その仮説とは異なる機能を持つことが予想でき、コヒーシンの結合解離の新しい分子メカニズムを提示できる可能性も高い。減数分裂期後期のコヒーシンの切断に依存しない解離は染色体の場所により、解離が起きる場所と起きない場所があることが分かっているが、この染色体領域毎の応答性の違いを生み出す分子基盤はまだ不明であるため、この後は染色体の領域ごとのコヒーシンの応答性を決定している染色体の要因を見出すことを試みている。また、リン酸化を受けると、コヒーシンのリングの開環がRec8とSmc3の間で起こるモデルを検証するため、Rec8-Smc3融合遺伝子を作成、解析することで、リング構造が開くモデルを検証している。
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今後の研究の推進方策 |
PLKやDDKによるRec8やWAPL(Rad61)のリン酸化がコヒーシンの解離に必要かどうかをリン酸化サイトのrec8やrad61変異体を作成して、染色体でのコヒーシンの局在を解析することで検証する。特に、減数分裂期後期のコヒーシンの切断に依存しない解離を制御する要因を調べるために、ゲノムワイドのコヒーシンの分布を減数分裂期の異なる時期にクロマチン免疫沈降―DNAシークエンス(ChIP-Seq)で解析する。異なる時期や異なる株での局在パターンを調べるために、Spiking法(異なる酵母細胞を一定量サンプルに加える)で、微妙な局在の違いも検出するように努める。オーストリア、ウィーン大学のKlein教授とインドIISER TRVのNihant KT博士との共同研究で、ChIP-SeqによるRec8やコヒーシン因子の染色体、時間ごとの局在の変化を解析する。領域内の共同研究として、3C(Hi-C)法(A02班白髭/伊藤との連携)などのゲノムワイド構造解析方法を用いつつあるが、系の解像度を上げるため、シングルセルの3C(Hi-C)法を、領域内の共同研究として永野博士と実施する。これらの情報をもとに、染色体OSのモデルとしての減数分裂期染色体の3D構造の構築を目指す。また、染色体の構造変化と、その場で起きる相同組換え反応の連携も、組換えに関わるタンパク質の局在を比較解析することで解析する。将来的にはこれら因子の動的変化を出芽酵母で記載した後は、同様な動的な変化、コヒーシンなどの局在の変化、が染色体機能(相同組換え)にどのような影響を与えるか、あるいは組換えがコヒーシンの動態にどう影響するのか、も同時に解析することも予定している。可能なら、マウスの減数分裂期(特に精子形成時)でもRec8などの局在の解析を器官培養系を用いて解析することを試みる。
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