計画研究
DNAの二重鎖切断(DNA double strand break; DSB)は、細胞にとって最も危機的なDNA損傷の一つである。DSBの修復には相同組換えが主要なDNA修復機構の一つとして機能する。本計画では、DSBが導入された染色体はいかなるメカニズムによってDSB修復を実現しているのか、染色体の時空間制御機構解析、組換え反応の試験管内再構成系、さらに、リアルタイム解析・1分子解析などによって多面的に切り込み、且つ、接合型変換をモデル系として4D情報を解析することで、DSB修復装置が核内でどのように時空間を制御して作動するのか、分子基盤や基本原理を明らかにしようとしている。特に、申請者が発見した相同組換え因子を主軸に、分裂酵母をモデル系としてDSB の修復過程における染色体の3D・4Dダイナミズムを明らかにしようとするもので、当該年度は次の実績をあげた。(1)相同組換えによるDNA二重鎖切断修復の3D 構築解析として、蛍光偏光解消法や蛍光共鳴エネルギー移動 (FRET) を用いて、Rad51 presynaptic フィラメント形成とDNA鎖交換反応のリアルタイム解析を行った。とくに、FRETを用いたリアルタイムアッセイ系から、DNA鎖交換反応が3ステップで進行することを発見した。さらに、Swi5-Sfr1やCa2+によるDNA鎖交換反応の活性化機構について、詳細に解析した。(2)分裂酵母の接合型変換におけるドナーDNAの選択機構をモデル系として、組換えにおける染色体の時空間制御、すなわち、4D情報を解析する。該当年度は、3C解析の精度を上げることに成功し、より詳細なmat 領域の染色体空間配置を解析した。また、欠失ライブラリーを作成して、接合型変換に関与する遺伝子の網羅的解析を行い、すべての非必須遺伝子について、欠失変異体を作成して接合型変換能を解析した。
1: 当初の計画以上に進展している
蛍光偏光解消法や蛍光共鳴エネルギー移動 (FRET)を用いたRad51によるDNA鎖交換反応のアッセイ系については、特段の進捗を遂げることができた。すなわち、DNA strand displacement (DSD) アッセイとDNA strand pairing (DSP) アッセイを確立して、リアルタイムでDNA鎖交換をモニターすることに成功した。これを用いて、反応速度論についてシミュレーションを行い、この反応が、2つの反応中間体(C1とC2)を通る3ステップで進行する証拠を得ることができた。さらに、特筆すべき発見として、Swi5-Sfr1複合体は、C1-C2トランジッションとC2から短鎖DNAの放出を促進することを明らかにした。これには、ATPの加水分解を必要とした。一方、Ca2+は、ATP加水分解非依存的、且つATP結合依存的に、C1-C2トランジッションを促進した。しかし、Ca2+は、C2から短鎖DNAの放出を促進することはなかった。また、C1形成に関しては、以前の報告にあるとおり、Rad51のATP結合が必須であり、ATP加水分解には非依存的であった。このC1形成に関しては、Swi5-Sfr1複合体やCa2+の正の効果はなかった。一方、接合型変換に関しては、当初計画を変更して、接合型特異的に蛍光タンパク質を産生する株を作成し、接合型変換能をより容易にかつ正確にアッセイするシステムを構築した。このシステムを用いて、接合型変換に関与する遺伝子の網羅的解析を完成した。さらに、得られた候補遺伝子を幾つかをin-depth 解析し、mat座におけるヒストンのユビキチン化が接合型変換に重要な働きをしている可能性を示唆した。
1)Rad51 によるDNA鎖交換反応の解析:これまでに、多数のRad51変異株を分離して、それぞれの変異タンパク質を精製し、遺伝学的解析や生化学的解析を行ってきた。これらミュータントは、それぞれ、本申請研究においてこれまで明らかにした各々のステップに欠損があると予想されるものがいくつか候補として上がってきた。そこで、今回確立したFRETを用いたリアルタイムアッセイを行い、これらミュータントにおいて反応のどのステップに欠損があるのかを解析する。また、もう一つのRad51活性化因子であるRad55-Rad57の生化学的解析が可能となったので、同様に、FRETを用いたリアルタイムのDNA鎖交換反応解析を行う。さらに、第3のRad51活性化因子と予想されているShu複合体についても、多量産生系を構築したので、今後精製して、DNA鎖交換反応における効果を解析する。加えて、ヒトRad51とヒトSwi5-Sfr1関連因子も精製したので、これらについても、リアルタイムアッセイを行う。さらに、減数分裂における組換え酵素であるDmc1のDNA鎖交換反応についても、リアルタイムアッセイを展開する。2)接合型変換の分子機構:新しく構築したアッセイ系を用いた網羅的解析が完成したので、本年度の前半には論文に纏める。また、候補遺伝子から、mat座におけるヒストンのユビキチン化が接合型変換に重要な働きをしている可能性が出てきた。本年度は、これの解析に注力する。また、引き続き、mat座におけるSwi2の局在や、mat座のクロマチン構造について、解析をすすめる。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件) 図書 (1件) 備考 (1件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
Genes to Cells
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1111/gtc.12503
Science
巻: 356 ページ: 631-634
10.1126/science.aan0038
FEBS letter
巻: - ページ: -
10.1002/1873-3468.12656.
http://www.iwasakilab.bio.titech.ac.jp