研究領域 | 染色体オーケストレーションシステム |
研究課題/領域番号 |
15H05974
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
岩崎 博史 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (60232659)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | DNA 二重鎖切断 / DNA修復 / 相同組換え / 接合型変換 / 分裂酵母 / Rad51リコンビナーゼ / Swi5-Sfr1 複合体 / DNA鎖交換反応 |
研究実績の概要 |
DNAの二重鎖切断(DNA double strand break; DSB)は、細胞にとって最も危機的なDNA損傷の一つである。DSBの修復には相同組換えが主要なDNA修復機構の一つとして機能する。本計画では、DSBが導入された染色体はいかなるメカニズムによってDSB修復を実現しているのか、染色体の時空間制御機構解析、組換え反応の試験管内再構成系、さらに、リアルタイム解析・1分子解析などによって多面的に切り込み、且つ、接合型変換をモデル系として4D情報を解析することで、DSB修復装置が核内でどのように時空間を制御して作動するのか、分子基盤や基本原理を明らかにしようとしている。特に、申請者が発見した相同組換え因子を主軸に、分裂酵母をモデル系としてDSB の修復過程における染色体の3D・4Dダイナミズムを明らかにしようとするもので、当該年度は次の実績をあげた。 (1)Rad51リコンビナーゼの単鎖DNA(ssDNA)への結合様式について、リアルタイムの単分子解析を行なった。その結果、まず、分裂酵母Rad51について、その補助因子である補助因子Swi5-Sfr1がRad51のDNAからの解離を抑制することを明らかにした。また、マウスRad51についても行い、マウスSwi5-Sfr1が、同様にssDNAからの解離を抑制することを明らかにした(Lu et al, PNAS, 2018)。 (2)分裂酵母の接合型変換に関与する遺伝子を網羅的に明らかにする目的で、欠失ライブラリーを作成して、すべての非必須遺伝子について、接合型変換能を解析した。その結果、新たにSet1C複合体等が接合型変換に関与することを発見し、その成果を論文に発表した(Maki et al, PLoS Gen, 2018)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
台湾のグループとの共同研究で、Rad51リコンビナーゼのssDNA結合について、単分子解析アッセイ方法を確立した。これを用いて、結合モードを解析し、補助因子Swi5-Sfr1複合体が分裂酵母Rad51の解離定数を低下させることでRad51-ssDNA複合体を安定することを証明した。また、同様なモードがマウスRad51でも働くことを示し、リコンビナーゼのプレシナプティックフィラメントの活性化モードが生物種を超えて保存されていることを示した。 また、接合型変換の分子機構を解析する目的で、接合型特異的に蛍光タンパク質を産生する株を作成し、接合型変換能をより容易にかつ正確にアッセイするシステムを構築した。すなわち、P細胞はCFPが発現しM細胞はYFPが発現するようにデザインし、それぞれの遺伝子破壊株で、どちらの蛍光タンパク質が発現しているのか検鏡下で計測することで、M細胞とP細胞の比を求めることができるというものである。3240個の非必須遺伝子についてこれを調べ、新たに、7個の遺伝子が接合型変換に関与することを明らかにした。これらは、Pof3 (F-box タンパク質)、Ckb1(CK2制御サブユニット)、Elp6 (RNA pol II elongator)、Brl2 (E3 ubiquitin ligase, HULC サブユニット),Swd1, Swd2 及びSpf1 [Set1/compass complex (Set1C)]である。これらを詳細に解析して、Swi6とともに、M細胞におけるmat2-Pの選択に関与している証拠を得た。これらを纏めて論文に発表した(Maki et al, PLoS Gen, 2018)。
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今後の研究の推進方策 |
1)これまで開発したリアルタイムモニター系を利用して、分裂酵母Rad51によるDNA鎖交換反応における2つの反応中間体形成のメカニズムをさらに詳細に解析する。特に、突然変異体を用いて、それぞれのステップに関与するアミノ酸残基の同定やその機能解析に注力する。これまでのところ、DNA結合モチーフとして知られているL1ループやL2ループのいくつかのアミノ酸残基がそれぞれ重要な機能をしていることが明らかになりつつあるので、これをさらに推し進めて、詳細に解析していく。最終的には、鎖交換反応の活性中心を解明する。また、Swi5-Sfr1によるRad51鎖交換反応活性化の作用機序を詳細に解析する。さらに、減数分裂特異的なリコンビナーゼであるDmc1との鎖交換における機能的な違いや相同性認識機構、さらに、ヒトRad51との相違についても拡張して解析する。2019年度は最終年度であるので、これらを論文に纏める。 2)接合型変換の分子機構:Set1CやHULCがどのように接合型変換に関与するのかその分子機構に迫る。これまでの解析から、Set1CとHULCは同一経路で、 M細胞におけるmat2-Pの選択に関与していることを強く示唆する結果を得ている。これには、細胞型特異的にヘテロクロマチンの構造が一部変化することが重要な役割をしている可能性が考えられる。また、細胞型特異的な転写との共役も示唆される。これらの可能性について、ChIP-Seqなどをつかって、mat領域のヘテロクロマチン構造や、mat領域のヒストンH2のユビキチン化やH3-K4のメチル化などを解析する。さらに、これを纏めて論文発表する。
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