研究領域 | 染色体オーケストレーションシステム |
研究課題/領域番号 |
15H05979
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
伊藤 武彦 東京工業大学, 生命理工学院, 教授 (90501106)
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研究分担者 |
吉田 健一 京都大学, 医学研究科, 助教 (50738226)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | ゲノム情報 / 染色体構造 / 染色体動態 |
研究実績の概要 |
本年度における研究では、1) Hi-CなどNGSデータからの染色体立体構造予測アルゴリズムの開発・改良、2) S.cerevisiaeを対象としたHi-Cデータの取得及び解析、3) 染色体OSプラットフォームの改良、4)MDS, DS-AMKLサンプルにおける網羅的解析を実施した。 1) ではTADの予測に注力し、コンタクト頻度をゲノム上の距離に応じて補正後得られた画像からエッジ抽出などの手法を適応することによる抽出を試みるなど、数多くの手法の提案に成功した。 2) ではdiploidゲノムを対象とし、相同染色体が核内でどのような構造をとっているかを明らかにすることを目的として、ゲノム配列に違いのあるS.cerevisiaeとS.eubayanusとのハイブリッド株を作成し、in-site Hi-Cを行うことに成功した。その解析結果より、相同染色体間でのセントロメア凝集などの様子を明らかにすることができた。 3) では、他班員から得られたHi-C, ChiP-seqデータなどを格納することでデータベースとしての機能を充実させると共に、ユーザがuploadしたデータを解析する機能の開発などを行い、ユーザが本システムを通じて、解析結果の可視化や他解析結果との比較などを容易に行うことのできる環境の構築を実施した。 4) では、過去の研究で急性巨核芽球性白血病などの骨髄性腫瘍でSTAG2をはじめとするコヒーシン複合体を構成する遺伝子に高頻度に遺伝子変異がみられることを明らかにした。コヒーシン複合体の遺伝子変異のある症例で染色体異常の増加はみられず、コヒーシンの機能異常は染色体分配の以外のメカニズムの異常により造血器腫瘍の発症に関わっていると考えられたが、詳細なメカニズムは明らかになっていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
染色体OSプラットフォームの整備と運用という最大の目的に関しては、着実に整備を進めており、他班員のデータ格納も積極的に行うなど研究はおおむね順調に進展していると考えられる。 このプラットフォームに格納するHi-Cデータの解析において用いる予定のオリジナルな解析手法の開発は、若干当初の予定より遅れ気味である。これは、開発したアルゴリズムのよい評価方法の欠如と密接に関連しているものである。新規アルゴリズムの提唱にいくつか成功しているものの既存手法との比較および優位性の証明をすることが困難であり、成果としてまとめる方法に苦労している。使用する制限酵素を変えた再現実験などに対してアルゴリズムを適用し、結果の一致度などを指標にしたベンチマークを来年度は実施する予定である。 また、MDS, DS-AMKLサンプルにおける網羅的解析では、Stag2遺伝子の造血細胞特異的なコンディショナルノックアウトマウスを作成して、Stag2変異造血幹細胞は、自己複製能亢進および分化異常を呈すること、Stag2変異造血細胞のオープンクロマチン領域には、Runxファミリー等の転写因子の結合領域が濃縮されていることを明らかにするなどおおむね順調に進展している。また、急性骨髄性白血病の一つである急性赤白血病の遺伝子解析を行い、STAG2変異とMLL遺伝子のpartial tandem duplicationを併せ持つ症例が他の急性骨髄性白血病に比べて極めて多いことを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
今後も今年度に引き続き、、1) 染色体立体構造予測アルゴリズムの開発・改良、2)実サンプルを対象としたHi-Cデータの解析、3) 染色体OSプラットフォームの改良、4)MDS, DS-AMKLサンプルにおける網羅的解析を実施していく予定である。 1)に関しては、今年度までに開発したアルゴリズムに基づき、手法の優位性を示した成果を論文などに早急にまとめることを予定している。そのアルゴリズムを適用することで、2)の実サンプル解析や、3)の染色体OSプラットフォームに格納するデータの解析に生かしていく予定である。3)に関しては、世界中で展開されているHi-Cデータを統一的な解析手法で網羅的に解析を実施し、その結果を格納することで、班員などが実施した解析結果と比較可能な形にしていくことも視野に入れている。 また、4)に関してはこれまでに、骨髄異形成症候群多数例を対象とした変異解析から、STAG2変異とRUNX1変異が有意に共存しやすいことを明らかにしている。そこで今後は、両変異の協調による癌化の分子メカニズムを明らかにするために、Stag2とRunx1に関するダブルノックアウトマウスを用いてRNAシーケンス、ChIPシーケンス、Hi-C解析等を行い、染色体上におけるコヒーシン結合の分布および染色体の高次構造、遺伝子発現、エピゲノム修飾の機構がどのような影響をうけ、腫瘍の発症と進展に寄与するのかを検討する。
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