研究概要 |
本研究では,有鬚動物マシコヒゲムシが有する巨大ヘモグロビンの立体構造を解明し,機能との相関を明らかにするとともに,細胞内での超分子複合体の組織化の機構を解明することである. 巨大ヘモグロビンとしては初めて,一部のサブユニットがリガンド非結合型となっている結晶構造の解析に成功した.その構造解析の結果得られた電子密度図で,A1鎖以外のヘムポケットにはまったく電子密度が観測されなかった.この結晶を再度溶解させて可視光スペクトルを計測すると,630nm付近の吸収が観測され,A1鎖以外のグロビン鎖ではヘム鉄が酸化されてメト型となった状態であると結論した.さらに、これまでの酸素結合型と比較して構造の変化が認められ,ヘムを含めたEFダイマー間の接触部位での構造変化が協同性の機構に重要な役割を果たしていることが明らかになった.マシコヒゲムシ巨大ヘモグロビ'ンの生合成がどの組織で行なわれているかをホールマウントin-situハイブリダイゼーションおよび半定量的PCRにより検討した.その結果,栄養体を覆う体腔膜が他の部位におけるシグナルよりも強く発色していた。さらに,各グロビン鎖遺伝子の発現は共通してマシコヒゲムシの前体部では少なく、後部に行くにつれて多くなり、栄養体部では最多の傾向がみられ、これはin situハイブリダイゼーションで得られた知見を支持する結果であった。本種におけるヘモグロビンの産生は、共生細菌への硫化水素運搬の必要性等から栄養体の存在する部位で重点的に行われていることが示唆された.
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