研究領域 | 脳・生活・人生の統合的理解にもとづく思春期からの主体価値発展学 |
研究課題/領域番号 |
16H06396
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研究機関 | 株式会社国際電気通信基礎技術研究所 |
研究代表者 |
川脇 沙織 (田中沙織) 株式会社国際電気通信基礎技術研究所, 脳情報通信総合研究所, 研究室長 (00505985)
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研究分担者 |
橋本 龍一郎 首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (00585838)
柳下 祥 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (50721940)
中谷 裕教 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (30333868)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 長期的価値 / 東京ティーンコホート / 多変量解析 / 安静時脳活動 / 親子関係 / 社会脳機能 |
研究実績の概要 |
(田中)長期的な行動選択の動因が形成・固定化・保持され、行動に表れるメカニズムを明らかにすることを目的とした長期連続実験を実施し、被殻後部に長期的な価値の獲得を示唆する活動を発見した。また 行動・脳活動を含む多変量データから、個人の長期的な行動選択特性を予測できる主体価値の推定モデルを同定するための解析手法の策定を、オープンデータ(Human Connectome Project)を用いて行い、収入や生活の満足度、教育年数などのアウトカムを予測するモデルを作成した。 (柳下)マウス頭部固定化で報酬によるパブロフ条件づけを行う実験系で側坐核シナプスの価値記憶形成における役割を調べてきた。側坐核へのシナプス入力を光遺伝学で刺激するとこれが条件刺激になり(CSopto)、さらに報酬との連合の後はこの刺激が強化子になることを明らかにし、側坐核のシナプスが価値記憶形成の基盤にあることを明らかにし論文投稿中である。さらに価値記憶から行動へと至る基盤を調査するために頭部固定化の接近行動の評価系の構築を行った。 (橋本)C01西田、D01笠井グループと連携し、東京ティーンコホート(TTC)の脳画像および質問紙データを用いて親子関係が10-12歳の児童の社会機能および脳機能に及ぼす影響を検討する解析を実施し、親子関係の肯定的関係の程度に応じて、児童の安静時における扁桃体を中心とした機能ネットワークが修飾される予備的な知見を得た。TTCのサブサンプルデータ(iTTC)から取得された11-12歳児童の文法性判断課題のデータを解析し、性別や世帯収入が格助詞の正しい用法に影響を及ぼす結果を得た。 (中谷)東京大学駒場キャンパスの3T-MRI装置を用いて、母子にて来所した第二期(13歳時)の児童または生徒68人を対象にしてiTTCデータ収集のための実験を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
領域間連携の重要課題である思春期コホートデータを用いた研究でも、親子関係の肯定的機能と社会脳ネットワークの機能結合の間に強い相関関係を認める予備的結果が得られた。また多変量解析手法の検討を行いデータ取得後にスムーズに解析に移る準備を整えたこと、また解析手法を論文として発表できたことからも、進捗状況は概ね順調であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
(田中)TTCおよびiTTCデータに関しては、現段階で得られている第1期のデータから第2期の主体価値に関わる指標の予測を行う予定である。また今後縦断の脳画像データが子・親で集まれば、因果関係を調べる解析を行うことが可能となる。そのために、行動指標の選定とデータの整理を慎重に行っていく。 (柳下)本年度に開発した接近行動を評価する実験系を用いて価値記憶が欲求状態に応じて行動選択に至るシナプス基盤を調査する。さらにこれまで側坐核D1細胞が主に関わる報酬による正の価値記憶の保持について調査してきたが、D2細胞が学習に関与すると考えられる罰による負の価値のシナプス基盤について調査する。さらにPFCシナプスの可塑性特性についても分かりつつあるため、PFCシナプスが価値記憶保持や行動選択において担う役割についても探索する。 (橋本)思春期コホートのMRIデータ解析から得られた予備的結果をさらに検討を加え、成果を論文にまとめていく。A01内、および班間連携により、思春期の主体価値形成に関与する言語・メタ認知機能の例として、自伝的記憶の脳内機序に関する機能イメージングのデータ取得を開始する。また、A01田中と連携し、同じく主体価値形成に重要な役割を果たす心理的機能である認知的不協和の解消の脳内機序に関する機能イメージング研究をおこなう。 (中谷)第二期iTTCでは八重洲クリニックと分担してデータの収集を行なって来たが、来年度から始まる第三期では駒場キャンパスで全てのデータ収集を行う予定である。また、東京ティーンコホートデータを用いて、親子関係や友人関係が人生の満足度及ぼす影響、スポーツや音楽などの課外活動が実行機能の発達を促進する効果、実行機能の発達と思春期における身体不定愁訴の関係を調べることで、思春期主体価値形成に寄与する要因を検証する予定である。
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