研究領域 | 脳・生活・人生の統合的理解にもとづく思春期からの主体価値発展学 |
研究課題/領域番号 |
16H06397
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
村井 俊哉 京都大学, 医学研究科, 教授 (30335286)
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研究分担者 |
福田 正人 群馬大学, 大学院医学系研究科, 教授 (20221533)
佐藤 尚 沖縄工業高等専門学校, メディア情報工学科, 准教授 (70426576)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 神経科学 / 脳・神経 / 認知科学 / エージェント / ソフトコンピューティング / 基底生活行動(生活習慣) |
研究実績の概要 |
1.主体価値・基底生活行動・脳のスパイラル・モデルの検証:①運動(武道)の健康増進作用に関し、剣道有段者のmotivation network(MN)内の機能的結合性(FC)について注意課題を用いて調べた。結果、剣道有段者では、安静時FCは低値、課題施行時に高値を示し、安静時‐注意処理時の動機づけの切替に秀でていると考えられた。②ギャンブル障害(GD)にて、島皮質(Ins)とdefault mode network (DMN)との間のFC変化を調べた。結果、Ins-DMN間の安静時FCはGDで高く、罹病期間と相関した。認知的処理にてDMNの活動は低下し遂行機能ネットワークへの切替が起こる際にInsが調節に関わると想定されているが、GDでの罹病期間依存的な切替の障害が示唆された。
2.リアルワールド神経行動計測:思春期の脳機能の特徴を、発話課題の視聴覚連合における脳磁図で認められる位相周波数カップリングPACとして検討した。平均25歳の成人に比し、16~7歳の思春期ではδ-β波PACの程度に差がないものの、タイミングが20~40msec遅れており、右側頭極におけるδ-β波PACが180°に近づくほど課題成績が改善した。この結果は、思春期において視聴覚連合の情報処理が成熟する背景にある脳機能を示し、基底生活行動と主体価値の基礎をなすと考えられた。
3.個人・社会のルールダイナミクスの解明:思春期主体の認知的柔軟性に関し、課題の潜在構造推定の重要性についての知見に基づき、確率的逆転学習課題のデータ分析を行った。結果、難条件下の課題では約23.3%の被験者で潜在構造を推定していることが示された。また、学校での依存的行動の抑制条件を調べるため、成績上位者が下位者をポジティブに引き上げるピアグループ効果(PGE)に着目した計算機実験を実施、PGEが依存的行動を抑制できることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.「主体価値・基底生活行動・脳のスパイラル・モデル」の検証:運動習慣、マルチタスク等の生活活動および、主体価値と関わる心理指標につき、質問紙やウェアラブル機器による計測を進め、サンプル数120強にて実施済である。横断的研究の成果としては、論文化も進んでおり、かつ、縦断的データも約40名にて取得済である。COVID-19の感染拡大防止の観点から新規データの取得は制限を受けるが、既存のデータの解析により成果を発信し、スパイラル・モデルにおける各項間の因果関係について考察していく準備は整ってきている。
2. リアルワールド神経行動計測:今回得られた結果は、思春期における基底生活行動と主体価値にとって重要となる発話における視聴覚連合の成熟過程を、脳磁図MEGにおける周波数特異的ネットワークで認められる位相周波数カップリングPACの遅れの減少として示したもので、それが課題遂行成績とに結びついていることが明らかとなった。こうした脳機能ネットワークの変化を示せたことで、思春期における脳機能の成熟発達と基底生活行動の変化と主体価値が内在化・個別化される過程の背景を明らかにすることができた。
3.個人・社会のルールダイナミクスの解明:思春期の被験者の行動データに強化学習モデルベース分析を行ったことによって、被験者の前頭前野の成熟の程度における個人差を反映し、認知的柔軟性の発達の有り様における多様性を示唆する結果を得た。また、PGEが依存的行動を抑制し得るかを検証した計算機実験の結果より、PGEがある程度依存的行動を抑制できるものの、その効果は多数派に依存するため、逆に依存的行動を助長する場合があること、故に教員の介入等により負のPGEを防ぎ、正のPGEのみを生み出す工夫が必要であることが分かった。 以上より、総じて本研究班の研究は順調に進捗しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1.「主体価値・基底生活行動・脳のスパイラル・モデル」の検証: 各種の生活行動と脳の可塑的変化の関連という点において、運動時間・睡眠をはじめとする取得済みの生活行動指標と遂行機能等の脳内ネットワークの関連等に関心をおき、脳機能・脳構造学的指標等との関連を横断的・縦断的に解析していく。さらに、主体価値に関わる心的指標と生活習慣、あるいは脳MRIによる指標との関連についても同様に解析をすすめていく。特に、縦断研究により、スパイラル・モデルにおける主体価値、基底生活行動・脳可塑性という三者間の関連・因果関係に迫ることを目指していく。さらに、新規7T-MRIによるデータ取得も継続し、同様の検討を行っていく予定である。
2. リアルワールド神経行動計測:昨年度に明らかにできた思春期における周波数特異的な脳機能ネットワークの特徴についての結果にもとづいて、思春期の主体価値およびその背景となる脳機能の成熟を促すために、実際の思春期の対象にとって有用な方法を探索する。その方法を日々の生活のなかで実施するための方法を検討し、リアルワールドにおいて基底生活行動を変える手法を確立して普及を図るためのツール開発の手がかりを明らかにする。
3. 個人・社会のルールダイナミクスの解明:これまで行ってきた確率的逆転学習課題を用いたヒト被験者に対する実験では、思春期主体に多様な認知的柔軟性があることが示唆された。また、思春期主体モデルによるマルチエージェント・シミュレーション実験では、他者の行動を注目・学習・内在化することで協調性が増すこと、および依存的行動をある程度抑制できることが分かった。今後はこれらの知見を基に思春期主体モデルにおける主体価値、およびそれらの総合より創発すると考えられる集団・社会価値の形成メカニズムを明らかにすることを試みる。
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