研究領域 | 「意志動力学(ウィルダイナミクス)の創成と推進」に関する総合的研究 |
研究課題/領域番号 |
16H06401
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
桜井 武 筑波大学, 医学医療系, 教授 (60251055)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 覚醒 / 意志力 / 大脳辺縁系 |
研究実績の概要 |
覚醒は意志力、モチベーションを構成する重要な要素の一つである。今年度は大脳辺縁系と覚醒系の相互作用について検討した。光遺伝学を用いて分界条床核に存在するGABA作動性ニューロンを特異的に興奮させたところ、ノンレム睡眠から2秒ほどの潜時をもって直ちに覚醒に移行することが明らかになった。しかし、レム睡眠時に同様の刺激を与えても何も効果がみられなかった。ノンレム睡眠から覚醒に直ちに移行する作用は、オレキシン受容体拮抗薬により影響を受けなかった。一方、分界条床核GABA作動性ニューロンを薬理遺伝学的により持続的に興奮させたところ、覚醒時間の延長とノンレム睡眠・レム睡眠両方の減少が認められた。この作用は、オレキシン受容体拮抗薬により強く阻害された。これらの結果から、①ノンレム睡眠時に分界条床核のGABA作動性ニューロンが興奮することで覚醒が惹起されるが、ここにはオレキシンの作用は介在しないこと、②分界条床核のGABA作動性ニューロンが持続的に興奮するとオレキシン系が動員され、その作用によって覚醒が維持されることが明らかになった。本研究により、不安などの情動に大きく関与する分界条床核におけるGABA作動性ニューロンが覚醒を誘導するメカニズムの一端が明らかになった。また覚醒制御にかかわる神経ペプチド、オレキシンが青斑核のNAニューロンを介して覚醒レベルとともに恐怖レベルを調節していることを明らかにした。オレキシンにより、興奮したNAニューロンは、扁桃体外側部に作用し、あらかじめ成立していた恐怖記憶を汎化させ、恐怖の応答を強めることが明らかになった。また、覚醒に関わる視床下部オレキシンニューロンやヒスタミンニューロンの制御系を明らかにするために組み替え狂犬病ウィルスを用いて逆行性トレースを行った。これらの研究により、視床下部、脳幹、大脳辺縁系を含む覚醒制御系の一部が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
意志力の要素として「覚醒」あるいは、覚醒を維持する機能は非常に重要である。本計画では、動機付け行動や、情動に伴う覚醒の制御系を明らかにすることを目的としており、覚醒に関わる神経系のコネクトーム解析を行い、光操作等によってその神経系の機能を明らかにすることを目指している。今年度は、分界条床核のGABAニューロンが覚醒を生み出すことや、覚醒制御系であるオレキシンニューロンが青斑核ノルアドレナリンニューロンに働いて、扁桃体を介して情動行動に影響を及ぼすことを明らかにし、論文発表を行った。その他、覚醒に関わる視床下部ニューロン(オレキシンニューロンとヒスタミンニューロン)に直接シナプスをつくるニューロン群をすべて明らかにし、一部は光操作を行って機能を解析した(投稿中)。以上のようにおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、覚醒制御に関わる神経回路を網羅的に明らかにし、報酬探索行動や、内発的動機付け行動(輪回し行動など)がどのように覚醒制御系を動員していくか、各種ウィルストレーサーをもちいた組織学的手法と、光遺伝学・薬理遺伝学を組み合わせて明らかにしていく。
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