計画研究
本年度は、オマーン(アラビア半島南東部)・ヨルダン(西アジア)、パキスタン(南アジア)、ベトナム(インドシナ半島東部)・モンゴル(中央アジア)での湖沼・遺跡の調査・分析を計画研究A01及び計画研究A02のメンバーと連携して実施した。野外調査で採集した試料の炭素14年代測定・OSL年代測定、堆積学・地球化学的な分析を行い、初期現生人類の居住環境や生活様式を探った。特に、アフリカを旅立った現生人類ホモ・サピエンスのアジアへの拡散の南ルート説の実証に重要と考えられるアラビア半島南部・パキスタでの考古・古環境合同調査を海外(スペイン・パキスタン・オマーン)の研究者らと連携して実施した。現在までに採集した湖沼・陸域堆積物(遺跡の分布地域)の堆積学・鉱物学・地球化学分析から、現生人類ホモ・サピエンスのアジアの移住期の気候変動についての解明を進めた(次年度以降も継続)。一方、アジア地域の過去の環境復元に関わる文献データ、パレオアジア遺跡データベースのデータ、地理情報データ、気候モデルの最終氷期の再現データを統合し、現生人類ホモ・サピエンスのアジアへの拡散ルートの環境復元やその環境適応を考察するモデル(エージェントベースモデルを利用)の開発・データの解析(多変量解析)に着手した。また、遺跡の土壌(埋没土)からの多様な環境情報の解読方法について検討を進めた。埋没土の光学的特性(近赤外吸収スペクトル分析)から古環境を復元する方法、遺物(骨化石など)や植物ケイ酸体の同位体分析などを効率的に進める体制の整備を進めた。次年度以降、遺跡発掘で採集した埋没土の分析を進め、本研究課題の初新人の居住環境や生活様式(生活の痕跡)を探るため研究基盤を整えた。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、現生人類ホモ・サピエンスのアジアへの定着期(後期更新世、12万6000年前~)の新人が定住する生活環境とその背景となる地域スケールの気候変動を実証的なアプローチで明らかにすることを目的としている。ホモ・サピエンスがアジアへ拡散した時代の水文環境や植生の状態を調べるために、オマーン・ヨルダン・パキスタン・ベトナム(南回廊)、イスラエル・モンゴル(北回廊)において、現地の研究機関・行政機関との連携研究体制を整え、考古学研究者と連携した調査や湖沼堆積物の掘削試料採集(モンゴル・ベトナム)を実施した。また、採集した試料の地球化学分析・鉱物分析を開始するとともに、初期現生人類の住環境の詳細を探る古環境指標(植物ケイ酸体や有機物の酸素同位体分析、光学特性分析、元素態炭素/有機炭素分析)の研究に着手した。これらの研究体制・研究基盤は、今後の研究の格段の進展を担保するものである。
国内外の多様な専門をもつ研究者と連携して「パレオアジア古環境研究ネットワーク」をより整備し、新人の拡散の南ルートの起点の環境についての理解を促すために、西アジア・アラビア半島・南西アジアでの考古・環境合同調査を継続的に実施する。アラビア半島では、前年度発見されたワディ・タヌーフの渓谷の洞窟・岩陰の考古・古環境合同発掘を行い、パキスタンでの考古・環境合同調査では、微地形調査・同位体トレサーを使った水文学研究などの新たな取り組みも行う。新人の拡散の南ルートの水資源の確保という観点からの検討を行う。これらの考古・環境合同調査の実施と並行して、後期更新世の気候変動が十分には解明されていないレバント(イスラエル)・中央アジア(モンゴル)・東南アジア(インドシナ半島)の高精度気候変動の解析を進める。特に、新人の拡散の北ルートを考えるうえで重要な中央アジア(大陸内部)の後期更新世の気候変動を重要課題に位置づける。本研究で採集した試料は、研究グループ外の研究者でも利用できるように情報発信し、気候変動研究を実施する研究者が有効利用できるように配慮する。新人がどのように時代とともに刻々と変化する生活環境の変化に適応し、独自の文化を形成したか、それを考えるうえでの基礎となるテーマを設定し議論を深める。考古学・古環境データ(復元・文献・気候モデル再現値)のデータを集約し、必要に応じて利用可能な2次データに加工し、そのデータセットの統計的な解析を進めることで、「新人がアジア各地に進出した時代の環境変動」、「アジアにおける新人の遺跡の分布を規定する環境因子」、「アジアの新人の環境変化に対する適応能力と文化形成」などの研究課題に取り組む。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (18件) (うち国際共著 12件、 査読あり 13件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (36件) (うち国際学会 12件、 招待講演 1件) 図書 (4件) 備考 (2件)
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