研究領域 | 特異構造の結晶科学:完全性と不完全性の協奏で拓く新機能エレクトロニクス |
研究課題/領域番号 |
16H06415
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
三宅 秀人 三重大学, 地域イノベーション学研究科, 教授 (70209881)
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研究分担者 |
宮川 鈴衣奈 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10635197)
荒木 努 立命館大学, 理工学部, 教授 (20312126)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 窒化物半導体 / 窒化アルミニウム / MOVPE法 / スパッタ法 / アニール / Face-to-Face / 深紫外LED / ヘテロ接合 |
研究実績の概要 |
スパッタ法によりサファイア上に堆積されたAlNは、非常に大きな格子ミスマッチなどにより多数の貫通転位が存在するが、高温熱処理(アニール)により高品質化が実現された。しかし、スパッタ法で作製したAlNには多くの不純物が含まれているために、その後のエピ層に悪影響を与えることが考えられる.それに比べてMOVPE法はより純度の高いAlNを成長させることができる.そこで本研究では、薄膜で高いc軸配向性を持ったAlNを作製することができるスパッタ法、不純物の少ない層を形成することのできるMOVPE法、AlN膜の高品質化のための熱処理を組み合わせることで高結晶性且つ高純度なAlNテンプレートの実現を目指した。 立命館大グループでは、MBE法を用いた窒化物半導体成長に対して、前年度に見出した特異構造導入(Nプラズマ照射および原子層材料挿入)による効果のメカニズム解明と制御に取り組んだ。まず、貫通転位伝搬の抑制効果が得られたNプラズマ照射の効果について、膜厚、温度、照射回数の影響を検討した。またNプラズマ照射にInNの熱分解を抑制する効果があることを明らかにした。次に、グラフェン系基板上への窒化物半導体の成長メカニズムの解明と制御に取り組んだ。その結果、ECR法とRF法という2つのイオン化率の違うMBE成長法を比較することで、窒素プラズマのイオン化率が大きいとグラフェン基板上での核生成密度が増加することも突き止めた。 名古屋工業大学は、平成29年度までに見出された基板表面への構造形成により,結晶成長に最適な初期核制御を試み、さらに制御性良く極性反転構造が作製できる条件を検討した。ダメージ層の評価として,TOF-SIMSによる基板再表面での元素組成や化学構造の評価を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
三重大学では、スパッタ法を用いてサファイア基板上にAlN緩衝層を20 nm堆積させた。その基板上にMOVPE法を用いてAlN緩衝層を300 nmとなるように成長させた。このMOVPE法を用いた成長において成長条件の最適化を行った。得られたAlN層はXRC半値幅は(0002)回折で50 arcsec、(10-12)回折で1650 arcsecが得られた。 XRC半値幅の結果から(0002)回折ではスパッタ法で形成された高配向核を引き継いでいることが分かる。(10-12)回折では熱処理後280 arcsecと非常に良好な結晶性が得られた。表面状態の結果から、スパッタ法によるAlN堆積後、多数の微結晶グレインで構成され、MOVPE法での成長において微結晶グレイン同士が合体し、全体の島密度が減少していることが分かる。高温アニール後、表面状態は数原子層分のステップテラス構造が得られた。AlN再成長後の表面状態に関しては成長温度1150 oCの表面状態を示す。この時、表面状態は1原子層分のステップテラス構造で構成されている。AlN再成長後の表面変化に関しては成長温度の変化に伴い、吸着原子の拡散長が変化したためと考えられる。作製したAlN緩衝層における不純物濃度は従来の方法と比べ低減することができ、クラックの発生に関しても抑制することができた。 立命館大グループでは、成長装置(プラズマ発生方法の検討)、成長プロセス(バッファ層材料、層構造の検討)、成長パラメーター(温度、時間)など多角的に検討を行い、結晶性の改善につながる成果とともにメカニズムの解明につながる知見を得ることができている。 名古屋工業大学では、マスク不要で高空間分解能の局所的な極性制御のため,窒素雰囲気中でのサファイア基板へのフェムト秒レーザー照射により窒素結合形成を試みた
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今後の研究の推進方策 |
基板/薄膜界面での特異構造導入の効果検討として,グラフェンやBN等の2次元結晶を挿入した成長に取り組む。これまでの研究でサファイア上AlN上へのAlGaN成長は格子定数及び熱膨張係数の不整合を緩和するために多層膜など非常に複雑な成長プロセスが必要となる。歪みをコントロールする新しい概念のエピタキシャル成長設計が必要である。一例として,グラフェンは1原子層からなり,面内垂直方向の制約がないため2次元方向での格子緩和の自由度が高いので、グラフェンやBNなどの2次元結晶を中間層として導入することも考えられる。 立命館大グループでは、まずNプラズマ照射の効果について、条件探索を進め、さらなる転位密度低減を目指す。一方、Nプラズマ照射によるダメージが電気的特性に与える影響も考慮し、ダメージフリーの特異構造導入手法についても検討を進める。原子層材料挿入の効果については、プラズマの生成方法の違いによって、グラフェン上に成長するナノ構造の核発生密度を制御できる可能性が見出されたことより、Nプラズマ照射と原子層材料導入を融合した新たな特異構造の機能化についても検討を進める。 名古屋工業大学が担当する基板表面加工は,ダメージ層の評価と、極性制御に重点を置いて研究を進める。TOF-SIMSによる基板再表面での元素組成や化学構造の評価を行う。下地基板の再表面の化学構造は,その後の核形成を決定づけるため,フェムト秒レーザやRFプラズマ照射により加工した基板の表面を詳細に調べる。
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