研究領域 | 特異構造の結晶科学:完全性と不完全性の協奏で拓く新機能エレクトロニクス |
研究課題/領域番号 |
16H06420
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
平山 秀樹 国立研究開発法人理化学研究所, 平山量子光素子研究室, 主任研究員 (70270593)
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研究分担者 |
寺嶋 亘 国立研究開発法人理化学研究所, 平山量子光素子研究室, 研究員 (30450406)
鎌田 憲彦 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (50211173)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 特異構造結晶 / 深紫外LED / THz-QCL / 結晶成長 |
研究実績の概要 |
深紫外発光ダイオード(DUV-LED)・半導体レーザ(LD)やテラヘルツ量子カスケードレーザ(THz-QCL)などの新規波長発光デバイスは、殺菌・浄水、医療、生化学産業、高密度DVD、各種透視・非破壊検用の光源、環境計測など、幅広い分野への応用が考えられ、これらの開発は重要である。しかし、これらの未開拓波長デバイスの実現のためにはいくつものブレークスルー技術が必要である。本研究では、結合ピラーバッファー、短周期超格子ドープ層、原子層平坦多重超格子などの特異構造結晶を開発し、これらの特異な物性を用いて、高濃度p型紫外コンタクト層、低貫通転移バッファー、LED高光取り出し構造、AlGaN系量子カスケード構造を実現する。これらの技術を用いて、DUV-LED、LD、THz-QCLの革新的新機能デバイスを実現することを目的とする。 本年度は、DUV-LEDの発光の内部量子効率(IQE)を向上させるために、ピラーAlN結晶を用いた低貫通転移密度AlNバッファー構造の形成を行った。DUV-LEDの光取り出し効率は特に低いため、将来的に基板をリフトオフして縦型構造とすることが望ましい。そこでリフトオフが可能なSi基板上にAlNピラーバッファー構造を作製した。加工Si基板(PSiS)上にピラーAlNを結晶成長しそれを平坦に埋め込み成長することで平坦なAlNバッファーをSi基板上に形成することに成功した。PSiS上の結晶成長を行うことで2×108cm-2以下の低い貫通転移密度を実現し、またSi基板上AlN結晶で問題となるクラック発生を大幅に押さえた。PSiS/AlN上にAlGaN系UVA-LEDを作製し発光を確認した。このほかに、p型AlGaNの高濃度化の研究において、短周期超格子(SPSL)p型AlGaNを用いたホール注入効果の研究に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、特異構造結晶として我々が研究目標としているAlNピラーバッファー構造とAlGaN超格子p型層の2テーマについて研究を着手し一定の成果が得られたので、研究はおおむね順調に進行していると考えている。特に深紫外LED開発では、光取り出し効率が小さいため市販デバイスの効率は3%程度にとどまっており、市場拡大の大きな妨げとなっている。そのような中、本研究室では光取り出し効率を向上させることにより外部量子効率が20%を超える深紫外LEDの実現に成功している。今後Si基板上でELO(横埋め込み成長)による高品質バッファーが実現できれば、縦型深紫外LEDが可能となり効率はその3倍程度まで向上することが期待できる。したがって、Si基板上の高品質AlNとそれを用いた紫外LED実現の成果は、深紫外LEDの高効率化にとって極めて重要な成果である。また、短周期超格子(SPSL)を用いたp型AlGaNの高ホール伝導の実現は、次世代の深紫外LD開発において重要である。深紫外LDで必要となる膜厚200-300nmのp-AlGaNクラッド層ではホール濃度が低いため、LD発振に必要な電流注入がほぼ不可能であった。今回SPSLを用いてホール伝導が改善され深紫外LD実現への可能性が広がった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、結晶の特異性を利用した結晶制御と発現される物性を用いて、高濃度p型AlGaN、極低転位AlNバッファー、紫外LED高光取り出し構造、高品質AlGaN多重超格子を実現し、これまでにない特性を有する特異構造結晶を実現する。それらの効果を用いて、高効率深紫外LED、深紫外LD、ならびに、GaN/AlGaNを用いた未踏波長QCLを実現し、革新的エレクトロニクスデバイスを創成することを目的としている。 H29年度では、深紫外LED・LDの実現において特に重要性の高い、高濃度p型AlGaNの創成に注力する。昨年度までに、短周期超格子(SPSL)の導入によるp型AlGaNの検討を行い一定の効果は確認できたが、ホール濃度の高濃度化による注入効率の改善やLD実現には未だ至っていない。Al組成70%以上のAlGaNではホール濃度が未だ低いのが現状である。これまで行ってきたSPSLに加え、今年度は、縮退ドーピング効果を調査することで高いホール濃度を実現する予定である。Mgアクセプターを5×1019cm-3以上の高濃度にドーピングすることで、アクセプターレベルがバンドを形成し、活性化エネルギーが著しく低減する可能性が示唆されている。MOCVD法に加え、高品質p型AlGaNが得られやすいMBE法を用いて結晶成長を行い、縮退ドープ効果を明らかにし、それらの結晶を用いて深紫外LEDの高効率化を実証する予定である。
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