研究領域 | 特異構造の結晶科学:完全性と不完全性の協奏で拓く新機能エレクトロニクス |
研究課題/領域番号 |
16H06423
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
酒井 朗 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (20314031)
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研究分担者 |
今井 康彦 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 主幹研究員 (30416375)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | ナノビームX線回折 / 3次元逆格子マッピング / 結晶性断層マッピング解析 / Ptワイヤプロファイラー / ナノボイド / 転位 / 圧電応答特性 / 時間分解ポンプ&プローブ法 |
研究実績の概要 |
当該年度は、引き続き、高空間・高角度分解能ナノビームX線回折法(nanoXRD法)による3次元逆格子マッピング解析技術を用いて、転位・ナノボイド等の特異構造を有する窒化物半導体結晶における格子面傾斜・回転・歪等の微細構造の解析を行い、膜中の特異構造である転位およびナノボイドの影響を調べた。また、結晶膜厚方向の深さ分解格子面微細構造を定量解析するにあたり、Ptワイヤプロファイラーを用いた計測手法を新たに開発した。本方法は、膜表面から入射させたX線の侵入方向に分布する格子面微細構造を、膜構造によらずに評価できる万能性を有し、数百nmから数十μmに及ぶ範囲での3次元深さ分解構造解析を可能とする。本手法をAlNトレンチ/テラステンプレート上AlN厚膜の評価に適用した結果、トレンチ領域内部の高密度転位群に起因する格子面傾斜揺らぎとトレンチ側壁の横方向成長に起因する格子面間隔揺らぎには、その上層部の結晶性を格段に改善させる犠牲的機能(sacrificial function)が存在することが明らかになった。 さらに、圧電応答原子間力顕微鏡(PFM)を用いて、特異構造を有する窒化物半導体結晶の電場に応答する局所ナノ領域の格子変形挙動を観測した。GaNバルク単結晶において、結晶の成長モードに依存して、酸素不純物濃度が高い領域では低い領域に比べて圧電応答が小さくなることが定量的に検出され、酸素不純物濃度差に起因する結晶内の特異構造が窒化物半導体の圧電特性に多大な影響を及ぼすことが明らかになった。また、圧電応答に関わる格子変形のダイナミクスを時間分解nanoXRDによって明らかにするために、前年度に立ち上げた、放射光X線パルスと同期した電界を試料に印加するポンプ&プローブ法をGaN on n-GaN構造に適用し、圧電応答オペランド観測に関わる予備的な実験結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、これまでに我々が注力してきた結晶特異構造解析評価の最有力手段であるnanoXRD法と3次元逆格子マッピング解析技術を駆使し、主として窒化物半導体中の特異構造の構造解析を進めた。また、結晶の面内のみならず、深さ方向の分析も可能にする万能的評価手段としてPtワイヤプロファイラー法を開発し、その有効性を確認した。圧電応答特性への特異構造の影響を明らかにするために、まず、PFM観察ではバルクGaN結晶中の特異構造に起因する圧電応答変化の検出に成功した。さらに、前年度開発した、放射光X線パルスと同期した電界を試料に印加するポンプ&プローブ法を実際のサンプルに適用し、GaNの圧電応答ダイナミクスに関わるオペランド観測の予備的実験を遂行した。以上より、当該年度の研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
nanoXRDによる結晶性断層マップ解析技術の確立にあたり、前年度の技術では評価対象となる試料が限定されていたが、当該年度に開発したPtワイヤプロファイラー法は、評価対象を限定しない万能的な方法である。本方法によれば、結晶試料の表面から所望の深さまでの回折X線を選択的に抽出できるが、現状では、約3μmの深さ分解能に留まっていること、また、試料の各深さ位置における結晶性を評価し得る断層マップの抽出までには至っていない。今後は、Ptワイヤの掃引機構と回折X線強度の検出機構の改造によって、深さ分解能を更に向上させると同時に、回折強度のサブトラクションが行えるレベルにまで検出ノイズを低減するなどして、断層マップ取得に向けた研究開発を続行する。それによって、窒化物半導体結晶における特異構造による結晶性改善効果を3次元で高分解能に、かつ定量的に明らかにしていく予定である。 また、窒化物半導体結晶の圧電応答機構の解明にあたっては、他班から供給されるAlN結晶やAlGaN/GaN HEMT等のデバイス構造に対しても観察対象を拡張し、PFMによる転位・ナノボイド等の特異構造に起因した局所ナノ領域の圧電応答特性評価と、nanoXRDによる圧電応答に伴う格子変形の観測を両立させる。特に後者については、ナノ秒からマイクロ秒の時間分解能をもって圧電応答のダイナミクスを捉える試みに挑戦する。
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