研究領域 | 特異構造の結晶科学:完全性と不完全性の協奏で拓く新機能エレクトロニクス |
研究課題/領域番号 |
16H06426
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
川上 養一 京都大学, 工学研究科, 教授 (30214604)
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研究分担者 |
船戸 充 京都大学, 工学研究科, 准教授 (70240827)
石井 良太 京都大学, 工学研究科, 助教 (60737047)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 近接場分光 / 窒化物半導体 / 発光機構解明 / 発光制御 / 特異構造 |
研究実績の概要 |
本研究は,InリッチInGaNおよびAlリッチAlGaNの特異構造における輻射(発光)および非輻射(非発光)再結合機構を時間・空間分解分光によって解明し,広いスペクトル領域において高い発光の内部量子効率を実現(究極の100%内部量子効率を目指して)するための知見を得ることを主要な目的としている. 前者の構造につては,ScAlMgO4基板上にコヒーレント成長したInGaNテンプレート上にInリッチInGaN量子井戸の作製に成功した.この試料の室温における赤色フォトルミネッセンス(PL)の内部量子効率は約15%と評価され,従来のGaN上に作製した試料と比べて大幅に効率が向上していることが示された.さらに,シンクロトロン放射光を用いたX線蛍光分析によって,InGaN系青色発光ダイオードのIn混晶組成のマッピングを行い,現状の空間分解能であるサブミクロンレベルの空間階層の揺らぎは,必ずしもLED効率にポジティブな効果を及ぼさないことが明らかにされた.今後は,従来のナノ局在の効果を実証することが重要であり,空間分解能を高めた測定技術の開発の重要性を示す成果と考えている. 後者の構造については,カソードルミネッセンス(CL)測定を通じて,AlNやAlGaN 量子井戸の非輻射再結合経路の温度変化を観測し,貫通転位付近における支配的な非輻射再結合中心は,低温では貫通転位であるが室温付近では点欠陥となることを見出した.この特性は,GaN系半導体と異なっており,AlリッチAlGaN 量子井戸の内部量子効率向上には,点欠陥密度の低減が必要であることを示すものである.今年度は,励起光源として210nmのCWレーザ光源を用いた近接場光学顕微鏡(SNOM)の開発に成功し,深紫外域での輻射・非輻射過程のマッピングについて万全の態勢が整った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ScAlMgO4基板上へのInリッチInGaN量子井戸の高効率赤色PLに関する成果は,窒化物半導体ワークショップ(IWN2018,金沢)において口頭講演を行うとともに,Applied Physics Express誌に報告した.この論文は,Spotlightsとして取り上げられており,注目を集めている. また,シンクロトロン放射光を用いたInGaN系青色LEDのIn組成マッピングの成果は,Scientific Reports誌に成果を報告した. AlGaN量子井戸の非輻射再結合機構に関する成果は,Physical Review Applied誌に19pのフルペーパーとして詳細な成果が纏められた.さらに,AlNステップバンティング上に形成されるAlGaN特異構造の成長と光物性の成果は,Advanced Optical Materials誌に報告するとともに,SPIE Optics + Photonics 2018(San Diego)において招待講演を行った. 世界最短波長域での深紫外SNOM開発(空間分解能:約100nm)の成果は,IWN2018において招待講演を行った.現在,論文投稿中である.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,時間・空間分解PL分光によってInリッチInGaNおよびAlリッチAlGaNの特異構造の光物性解明に取り組む.前者については,LED構造におけるSNOMマッピングに着手し,実デバイスにおける局在発光中心の可視化に取り組む.後者については,深紫外SNOMの室温測定系が構築できたので,様々な特異構造のPLマッピングを行い,発光・非発光機構の解明に取り組む.また,深紫外SNOMの性能向上に関して,ファイバープローブの改良により100nm以下の空間分解能を目指すとともに,低振動クライオスタット装置を導入して,極低温から室温までの温度可変測定が可能な装置を開発する. 発光の内部量子効率の評価手法の確立やその物理的解釈は,光物性を議論する際に最も重要な事項である.このような統一的なテーマについて,学会やグループ間討論会を開催し,基礎光物性への貢献に資するよう取り組む.
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