研究領域 | 特異構造の結晶科学:完全性と不完全性の協奏で拓く新機能エレクトロニクス |
研究課題/領域番号 |
16H06428
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
山田 陽一 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (00251033)
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研究分担者 |
倉井 聡 山口大学, 大学院創成科学研究科, 助教 (80304492)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 結晶特異構造 / 混晶不均一系 / 低次元不均一系 / 局在効果 / 励起子分子 / 内部量子効率 / 窒化物半導体 / 励起子工学 |
研究実績の概要 |
混晶における組成揺らぎや低次元構造における量子サイズ揺らぎなど、構造的不完全性に起因した結晶特異構造に着目し、不均一局在系における非輻射再結合過程の不活性化機構と高密度励起子系の輻射再結合過程の解明に関する実験的研究を行った。 InGaN混晶不均一系に関しては、InGaN/GaN超格子をピット拡張層として挿入したInGaN/GaN量子井戸構造を対象とした近接場光学顕微分光測定により、Vピット近傍に形成されるポテンシャル障壁の高さとその空間分布を評価した。その結果、超格子周期によりピットサイズを変化させることが可能であること、ポテンシャル障壁の高さと内部量子効率(IQE)がピットサイズに依存すること、ポテンシャル障壁の高さとIQEの間に強い相関があることを明らかにした。次に、中温成長GaN層をピット拡張層として挿入したInGaN/GaN量子井戸構造では、ピット拡張層としてInGaN/GaN超格子を用いた場合よりもVピット近傍に形成されるポテンシャル障壁が高くなることを明らかにした。一方、両者のIQEを比較すると、中温成長GaN層を用いた場合の方がInGaN/GaN超格子を用いた場合よりも低く、IQEに対するポテンシャル障壁高さの効果は限定的であることが示唆された。 AlGaN混晶不均一系に関しては、Al0.6Ga0.4N/Al0.7Ga0.3N量子井戸構造を対象として、室温よりも高温領域(300~750K)における発光および発光励起分光測定を行った。その結果、励起子と励起子分子との間の非弾性散乱や、励起子分子と励起子分子との間の非弾性散乱による発光線が温度上昇とともに徐々に顕在化していくことを明らかにした。この顕在化は、温度上昇に伴う熱エネルギー増大の影響を受けて、励起子と励起子分子が局在状態から非局在状態へとその占有状態が変化することを反映した現象であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
InGaN混晶不均一系に関しては、Vピット拡張層としてInGaN/GaN超格子を挿入した場合と同様に、中温GaN層を挿入したInGaN/GaN量子井戸構造においてもVピット近傍にポテンシャル障壁が形成されることを明らかにした。このような貫通転位近傍に自己形成されるポテンシャル障壁は、キャリアが転位に捕獲されるのを妨げる、すなわち、非輻射再結合過程を抑制する働きがあるものと考えられ、InGaN混晶不均一系における非輻射再結合中心の不活性化機構の解明につながる成果であると考えている。 一方、AlGaN混晶不均一系に関しては、室温よりも高温領域において、励起子-励起子分子間や励起子分子-励起子分子間の非弾性散乱など、励起子多体効果が顕在することを明らかにした。この顕在化は温度上昇に伴う励起子系の非局在化を反映したものであり、励起子多体効果を利用した高効率発光を実現する上で局在化の制御が重要であることを示す結果であると考えている。年度初めに立案した研究実施計画はほぼ達成されたものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
InGaN混晶量子井戸構造に関しては、近接場光学顕微分光測定により、貫通転位を起点として形成される成長ピットに起因したポテンシャル障壁の存在を明らかにしてきた。2019年度は、近接場光学顕微分光法により評価されたポテンシャル障壁の高さと内部量子効率との相関に着目した研究に取り組む。ピット拡張層としてInGaN/GaN歪超格子を利用した場合と中温成長GaN層を利用した場合を比較し、非輻射再結合過程を遮蔽するためのポテンシャル障壁形成にどちらのピット拡張層が有効であるかを明らかにする。また、ポテンシャル障壁の形成機構について、青色発光試料と緑色発光試料の相違を明らかにする。その上で、不均一局在系における励起子系の局在機構と非輻射再結合過程の不活性化機構との相関を解明する。 一方、AlGaN混晶量子井戸構造に関しては、そのPLスペクトルの温度依存性の測定結果より、室温よりも高温領域において、励起子-励起子間、励起子分子-励起子分子間、励起子-励起子分子間の非弾性散乱等、励起子多体効果に基づく発光が顕著に現れることを明らかにした。2019年度は、AlGaN量子井戸構造の光機能性の評価として、その深紫外域における誘導放出特性の解明に取り組む。特に、2018年度までに得られた知見に基づいて、極低温から室温までの温度領域に加えて、室温以上の高温領域における誘導放出の測定を重点的に行い、誘導放出機構、すなわち、光学利得の生成機構への励起子多体効果の寄与を明らかにする。
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