研究領域 | ネオウイルス学:生命源流から超個体、そしてエコ・スフィアーへ |
研究課題/領域番号 |
16H06430
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
朝長 啓造 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 教授 (10301920)
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研究分担者 |
川野 秀一 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (50611448)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 内在性RNAウイルス / ボルナウイルス / 共進化 / 外適応 |
研究実績の概要 |
私たち生物のゲノムDNAには、ウイルスに由来する遺伝配列(内在性ウイルス)が数多く存在している。2010年、研究代表者は、ヒトをはじめ多くの哺乳動物のゲノムに内在化するボルナウイルス由来配列を発見した。本研究では動物における内在性RNAウイルスの網羅的検索とその機能解明を行ない、生物進化におけるウイルス感染の真の意義の発見と新しい概念の構築を目指すものである。本年度は、2つの柱①動物ゲノムにおけるRNAウイルス由来配列を網羅的同定、②宿主ゲノムにおける内在性RNAウイルスの機能解明を推進した。①においては、内在性RNAウイルスのインテグレーション構造の規則性に着目し、その規則性に従った配列を網羅的に検索するためスーパーコンピュータシステムSHIROKANE上で動作する検索プログラムを作成した。また、候補として上がってきた配列に対してデータサイエンスや機械学習の技術を用いて内在性RNAウイルスか否かの判断基準を作成した。その結果、これまでに同定されていない内在性RNAウイルス様配列を検出した。柱②では「ヒト由来内在性ボルナウイルス様配列-2ならびに-3(hsEBLN-2, -3)の機能解明」ならびに「コウモリゲノムにおける内在性ボルナウイルス様配列(miEBLN-3)の発現と機能解明」を遂行した。それぞれで宿主細胞での発現と相互作用する宿主因子を同定し、機能の作用機序を明らかにしている。特に、hsEBLN-3の解析では、ヒトゲノムのhsEBLN-3配列から長鎖非コードRNA(E3 lncRNA)が発現することを明らかにし、E3 lncRNAが細胞のヒストン代謝を制御して、外来性のボルナ病ウイルスの複製を抑制していることを証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の2つの柱である①「動物ゲノムにおけるRNAウイルス由来配列の網羅的同定」と②「宿主ゲノムにおける内在性RNAウイルスの機能解明」はいずれも当初の研究目的ならびに研究計画に沿って順調に進展を見せている。柱①では、研究計画に従い、未知の内在性RNAウイルスを検出するプログラムの開発を行い、ヒトゲノムにおいて内在性RNAウイルス様配列の検出が可能であることを示した。今後、プログラムのさらなる改良は必要ではあるが、申請書に記載の目標は達成している。柱②では、当初計画に基づき、ヒトならびに動物ゲノム内のいくつかの内在性ボルナウイルス様配列の解析に着手し実験を進め、論文作成など申請書の記載に近い成果を上げている。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、2つの柱の研究計画に沿って研究を進める。柱①では、現在のプログラムの改良を行う。また、様々な哺乳動物に適用可能な検索プログラムと判断基準を開発し、候補配列を取得することで、ウイルス配列か否かを検証する。ここまでの研究で同定された新規ウイルス配列に対し、それらの配列がそれぞれの種間で共通しているか等の共通性解析を行うことで進化の観点からの意味付けを狙う。柱②では、ヒトとコウモリゲノムでの内在性ボルナウイルス様配列の機能解析を進める。hsEBLN-2, hsEBLN-3, miEBLN-1作用の分子機序を解明し論文としてまとめる。また、内在性フィロウイルス様配列の抗ウイルス作用の解析を進め、新規に同定した内在性RNAウイルス様配列の細胞での発現解析を進める。
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