研究領域 | ネオウイルス学:生命源流から超個体、そしてエコ・スフィアーへ |
研究課題/領域番号 |
16H06431
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
澤 洋文 北海道大学, 人獣共通感染症リサーチセンター, 教授 (30292006)
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研究分担者 |
松野 啓太 北海道大学, 獣医学研究院, 講師 (40753306)
中尾 亮 北海道大学, 獣医学研究院, 准教授 (50633955)
大場 靖子 北海道大学, 人獣共通感染症リサーチセンター, 講師 (60507169)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 吸血性節足動物 / 内在性ウイルス / 微生物 |
研究実績の概要 |
本計画研究は、吸血性節足動物の内在性ウイルス (エレメント)が宿主に及ぼす影響、及び節足動物内の微生物叢における役割を解明することを目的とし、平成28年度に引き続き、1)新規内在性フラビウイルスエレメント・フレボウイルスの同定、2)蚊内在性フラビウイルスエレメント・マダニ内在性フレボウイルスの機能・動態解析、3)微生物叢の解析と節足動物実験室内コロニーの樹立 、4)蚊・マダニに共生する新規ウイルスの同定と機能解析、の4項目を実施している。平成29年度の実施実績は下記の通り。 1)野外採集蚊におけるフラビウイルス遺伝子のスクリーニングを実施し、内在性フラビウイルスを保有する蚊種を新たに同定し、ゲノム内のフラビウイルスエレメントの塩基配列および挿入領域を同定した。また、野外にてマダニを採集し、マダニに内在する新規フラビウイルスを発見、それらの全塩基配列を決定した。2)ヒトスジシマカ由来細胞において共通エレメント領域のRNA発現を確認した。また、マダニに内在する新規フレボウイルスのRdRp遺伝子、および核タンパク質(N)遺伝子をクローニングした。さらに、これらのタンパク質の機能解析をするために、既存のダニ媒介性フレボウイルスのミニゲノムアッセイ系を樹立した。 3)野外で採集したマダニ約300個体の細菌叢解析を実施し、マダニ種によって共生細菌種に偏りがあることを明らかにした。また、実験動物を用いてオオトゲチマダニ、ヤマトマダニの実験室内吸血系を構築し、吸血後の発育を確認した。4)野外で採集した蚊・マダニから、メタゲノム解析、およびウイルス分離試験にて、1)で述べたウイルスとは別に多様な新規ウイルスを同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、研究計画に記載している4項目について、それぞれ、下記の結果が得られた。 1)野外採集蚊におけるフラビウイルス遺伝子のスクリーニングを実施し、内在性フラビウイルスを保有する蚊種を新たに同定し、ゲノム内のフラビウイルスエレメントの塩基配列および挿入領域を同定した。また、ダニに内在する新規フラビウイルスを同定しその全塩基配列を決定した。さらに、多様なダニ媒介性フレボウイルスを検出するRT-PCR法により、野外採集ダニ各個体ごとにスクリーニングを実施した。 2)多様な種の蚊から同定した内在性ウイルスエレメントの遺伝子配列の内、RdRp 遺伝子内に共通するエレメント領域に着目し、ヒトスジシマカ由来細胞において共通エレメント領域のRNA発現を確認した。また、内在性フレボウイルスの機能・動態を解析するために、マダニに内在する新規フレボウイルスのRdRp遺伝子、および核タンパク質(N)遺伝子をクローニングした。さらに、ダニ媒介性フレボウイルスであるSFTSウイルスのミニゲノム検出系を樹立した。 3)野外で採集したマダニ約300個体の16Sアンプリコン解析を実施し、マダニ種によって共生細菌種が異なることを明らかにし、特に国内のマダニ種では、コクシエラ属細菌、リケッチア属細菌などが優占することを見出した。優占共生細菌の分離培養も進め、4属7株のドラフトゲノムを構築した。節足動物のミトゲノムに基づく分子系統解析手法を新たに開発した。また、オオトゲチマダニ、ヤマトマダニの実験動物を用いた吸血と次発育期の作出系を構築した。 4)野外で採集した蚊・マダニから、メタゲノム解析、およびウイルス分離試験にて多様な新規ウイルスを同定した。また、北海道で採集したオオトゲチマダニ幼虫から、FLDS法を用いて新規トチウイルスを検出した。 以上の結果から本研究は概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1)国内外での蚊・マダニの採集地域の範囲を広げ、フラビウイルス、フレボウイルスのスクリーニングを継続する。同定された各ウイルス・ウイルスエレメントの遺伝子配列と既知のウイルス・フラビウイルスエレメントとの相同性を解析し、系統樹解析によりウイルスの進化および蚊との共進化に関する新たな知見を得る。 2)蚊ゲノム由来ウイルスエレメントの機能を明らかにするために、蚊由来細胞や継代ネッタイシマカ等を用いて、ウイルスエレメント由来RNAの発現抑制や過剰発現による宿主細胞因子の変化をRNA-Seq等により解析する。ヒトスジシマカやネッタイシマカに感染するフラビウイルス、および他の共存RNAウイルスに対して、内在性フラビウイルスエレメントが及ぼす影響を感染実験により検証する。マダニに内在化したフレボウイルス各タンパク質の機能を、既存のダニ媒介性フレボウイルス実験系を用いて検証する。特に、遺伝子再集合による粒子形成能の獲得について検証する。 3)野外で採集した蚊・マダニのミトゲノム情報による分子系統関係と、ウイルス-共生微生物叢構成を比較し、節足動物の進化における微生物叢の役割と、共生微生物間の依存・排他的関係の保存性を解析する。構築した実験室内飼育系を用いて蚊・マダニを複数世代維持し、共生微生物叢の推移を解析する。 4)蚊・マダニと共生していることが推定されるウイルスが単離出来た場合、蚊・マダニ由来の培養細胞、または蚊・マダニの実験室内コロニーを用いて感染実験を実施し、細胞や蚊・マダニの発育、微生物叢、宿主遺伝子発現に及ぼす影響を非感染時と比較検討し、新たな共生ウイルスの役割を推定する。
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