計画研究
本計画研究は、吸血性節足動物の内在性ウイルス (エレメント)が宿主に及ぼす影響、及び節足動物内の微生物叢における役割を解明することを目的とし、平成29年度に引き続き、1)新規内在性フラビウイルスエレメント・フレボウイルスの同定、2)蚊内在性フラビウイルスエレメント・マダニ内在性フレボウイルスの機能・動態解析、3)微生物叢の解析と節足動物実験室内コロニーの樹立、4)蚊・マダニに共生する新規ウイルスの同定と機能解析、の4項目を実施している。平成30年度の実施実績は下記の通り。1) 日本国内、シエラレオネ、ザンビア、ボリビアにおいて採集した蚊、マダニを用いてウイルス遺伝子のスクリーニングを実施した。内在性フラビウイルスを保有する蚊種を新たに同定し、遺伝子解析、性状解析を実施した。マダニ中から検出されたフレボウイルスの遺伝子配列と既知のフレボウイルス遺伝子配列との相同性を解析し、系統樹解析によりウイルスの進化およびマダニとの共進化に関する新たな知見を得た。2)および3) 内在性フラビウイルスエレメントに対するdsRNAを作製し、ネッタイシマカ由来細胞、およびネッタイシマカ継代個体に導入し、遺伝子発現抑制効果を検証した。また、マダニに内在する新規フレボウイルスのRNAポリメラーゼ、および核タンパク質の活性を、既存のダニ媒介性フレボウイルスミニゲノムアッセイ系を用いて評価した。3) 新たに3種のマダニについて実験室内コロニーを樹立した。また、17種のマダニについてミトコンドリアゲノムの遺伝子配列を決定し、系統解析を行った。4) 野外で採集した蚊・マダニを用いて、メタゲノム解析および細菌・ウイルス分離培養を試みた。野外で採集したマダニのミトゲノム情報による集団遺伝構造解析を実施した。
2: おおむね順調に進展している
平成30年度は、研究計画に記載している4項目について、それぞれ、下記の結果が得られた。1)野外採集蚊におけるフラビウイルス遺伝子のスクリーニングを実施し、内在性フラビウイルスを保有する蚊種を新たに同定し、ゲノム内のフラビウイルスエレメントの塩基配列および挿入領域を同定した。また、ダニに内在する新規フレボウイルスの全塩基配列決定を平成29年度に引き続き実施した。特に、今回新たに調査したシエラレオネおよびボリビアで採集したマダニから検出されたフレボウイルスの系統解析により、マダニによって媒介される病原ウイルスと異なり、内在ウイルスには地理的制約が存在しないことが示唆された。2) マダニに内在する新規フレボウイルスのRNAポリメラーゼ、および核タンパク質の活性を、既存のフレボウイルスのミニゲノムアッセイ系を用いて評価する手法を樹立した。3) 平成29年度にコロニーを確立したマダニ2種に加え、Haemaphysalis longicornis(フタトゲチマダニ )、H. hystricis(ヤマアラシチマダニ )、H. formosensis(タカサゴチマダニ)について野外より採集した成ダニ個体もとに実験室で吸血実験に供し、産卵、孵化を確認し、実験室コロニー化した。また、マダニ特異的短鎖プライマーとPhi29によりマダニミトコンドリアゲノムを特異的に増幅する手法を開発し、17種30個体以上のミトコンドリアゲノム配列を決定し、国内における集団遺伝構造を明らかにした。4) マダニよりSpiroplasma、Rickettsia、Rickettsiella、Rhabdochlamysiaなどの共生菌20株あまりを分離し、それらのゲノムを部分的に解読した。また、マダニ中に含まれる宿主血液に由来したと推定される蚊媒介性ウイルス遺伝子を検出した。
各研究項目について以下の推進方策を計画する。1)引き続き、各地で採集した節足動物における、フラビウイルス、フレボウイルスのスクリーニングを継続する。同定された内在化したウイルス・ウイルスエレメントと既存の感染性ウイルスとの違いを決定づける因子を同定し、ウイルス内在化のメカニズムを解明する。2)蚊由来細胞や継代ネッタイシマカを用いて、フラビウイルスエレメント由来RNAの発現抑制や過剰発現による宿主細胞因子、特に節足動物の免疫関連因子の変化を解析する。内在性フラビウイルスエレメントまたはフラビウイルスと、他のRNAウイルスとの共存関係を感染実験により検証する。複数のマダニ内在性フレボウイルスについてRNAポリメラーゼ・核タンパク質発現系を確立し、既に樹立したミニゲノムアッセイ系を用いて活性を異なる細胞種間で比較することで、内在性フレボウイルスの宿主への馴化について解析する。3)蚊・マダニと共生していることが推定されるウイルスが単離出来た場合、蚊・マダニ由来の培養細胞、または蚊・マダニの実験室内コロニーを用いて感染実験を実施し、細胞や蚊・マダニの発育、微生物叢、宿主遺伝子発現に及ぼす影響を検討し、新たな共生ウイルスの役割を解明する。4)野外採集個体だけでなく、節足動物由来培養細胞を共生科学の有用なツールと捉え、海外の2つの節足動物細胞の集積拠点から様々な節足動物種に由来する細胞株を入手し、共生モデルへの応用を検討する。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 10件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 10件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 3件、 招待講演 4件) 図書 (1件) 備考 (2件)
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