計画研究
吸血性節足動物の内在性ウイルス(エレメント)が宿主に及ぼす影響、及び節足動物内の微生物叢における役割を解明することを目的とし、2019年度は下記の研究成果を得た。1)内在性フラビウイルスエレメント(EFVE)・フレボウイルスの同定:国内外において採集した蚊、マダニを用いてウイルス遺伝子のスクリーニングを実施した。蚊ゲノム内の未同定のEFVEを新たに検出し、遺伝子解析を実施した。マダニと共進化するフレボウイルスの遺伝子配列をさらに解析し、より詳細な系統解析を実施した。2)EFVE・マダニ内在性フレボウイルスの機能・動態解析:新たに同定したヒトスジシマカのEFVEの遺伝子発現を蚊個体および培養細胞で確認した。EFVE領域の遺伝子発現プラスミドによるEFVE由来タンパク質発現を確認した。またヒトスジシマカ由来EFVEに対するdsRNAを作製し、継代個体に導入して遺伝子発現抑制効果を検証した。また、フレボウイルスのRNAポリメラーゼ、および核タンパク質の活性を測定するミニゲノムアッセイ系をさらに拡充し、系統的に異なるウイルス間でウイルスタンパク質を入れ替えてもウイルスRNAの複製・転写が行われることを示した。3)微生物叢の解析と節足動物実験室内コロニーの樹立:新たに樹立したフタトゲチマダニ(高知株)実験室株について、野外採集フタトゲチマダニとの細菌叢比較を行った。また、吸血前後での細菌叢の変化を解析し、吸血刺激に反応する細菌群を特定した。マダニのストレス応答遺伝子をノックダウンし、細菌叢に与える影響を解析した。4)蚊・マダニに共生する新規ウイルスの同定と機能解析:野外採集蚊・マダニを用いて、メタゲノム解析および細菌・ウイルス分離培養を試みた。ボリビアの野外生息蚊から新規のフラビウイルス3種を同定した。マダニにおいてはフレボウイルスの感染有無と有意に相関する細菌群を特定した。
2: おおむね順調に進展している
2019年度は、研究計画に記載している4項目について、それぞれ、下記の結果が得られた。1)これまでに検出した各種の野外採集蚊におけるEFVEの塩基配列および蚊のゲノム内挿入領域を同定した。また、ダニに内在する新規フレボウイルスの全塩基配列決定を平成30年度に引き続き実施した。特に、今回調査した日本国内およびボリビアで採集したマダニから検出されたフレボウイルス株の配列を加えたことにより、さらに詳細な系統解析が可能となった。2) 新たに同定したヒトスジシマカのEFVEの遺伝子発現を蚊個体および培養細胞で確認した。EFVE領域の遺伝子発現プラスミドによりタンパク質発現を確認した。新たに複数種のフレボウイルスのRNAポリメラーゼ、および核タンパク質の活性を測定するミニゲノムアッセイ系を樹立し、これらと既存のフレボウイルスのミニゲノムアッセイ系を組み合わせてもウイルスタンパク質の機能が一部保持されることを示した。3) 新たに樹立したフタトゲチマダニ(高知株)実験室株について、安定して継代維持が可能となったため、複数の細菌叢解析に供することができた。野外採集マダニとの比較解析、吸血前後における変化解析、マダニ遺伝子ノックダウンにおける影響解析など、マダニの生理活動と関連する細菌群を明らかにした。4) 野外採集マダニ のフレボウイルス感染状況と細菌群との相関解析を実施した。フレボウイルス感染マダニ では細菌叢のα多様性が増すこと、特定の細菌群がフレボウイルス保有の有無と相関することを示した。
各研究項目について以下の推進方策を計画する。1)新規内在性フラビウイルスエレメント・フレボウイルスの同定:引き続き、各地で採集した節足動物における、フラビウイルス、フレボウイルスのスクリーニングを継続する。本年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、野外活動が制限されるため、北海道内での採集を強化する、研究協力者から試料を分与してもらうなどして、予定と同様の成果が出るよう務める。同定された内在化したウイルス・ウイルスエレメントと既存の感染性ウイルスとの違いを決定づける因子を同定し、ウイルス内在化のメカニズムを解明する。2)蚊内在性フラビウイルスエレメント・マダニ内在性フレボウイルスの機能・動態解析:継代蚊および各地域に生息するヒトスジシマカにおいて、昨年度同定したヒトスジシマカEFVEに由来するRNA発現量を比較解析する。各個体においてのEFVE由来RNA発現量と、共存する微生物叢との関連性を検討し、EFVE発現が蚊個体に与える影響を解析する。樹立したフレボウイルスRNAポリメラーゼ・核タンパク質発現系を拡充し、ミニゲノムアッセイ系を用いたウイルス株間のタンパク質機能比較解析に用いるほか、宿主応答についても解析する。3)微生物叢の解析と節足動物実験室内コロニーの樹立:フタトゲチマダニ以外のマダニ種についても、個体数が確保されたものから細菌叢解析に供試する。マダニ種間で共通して見られる現象をあぶり出し、マダニの生理活動における細菌叢の役割を解析する。4)蚊・マダニに共生する新規ウイルスの同定と機能解析:野外採集マダニでみられたフレボウイルスと細菌叢との相互関係を、実験的にフレボウイルスを接種したマダニ実験室株で立証する。フレボウイルス感染マダニのRNAseq解析により、フレボウイルスの感染と相互作用に寄与する細菌側因子の検出を試みる。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (16件) (うち国際共著 16件、 査読あり 16件、 オープンアクセス 16件) 学会発表 (39件) (うち国際学会 10件、 招待講演 3件) 図書 (1件) 備考 (2件)
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