計画研究
本研究領域の目的である「従来、病原性因子の一つとして捉えられているウイルスを、地球生態系の構成因子として捉え直し、地球生態系の恒常性維持機構に果たす意義を解明する」を鑑み、宿主に終生潜伏感染するという高度な共生関係を確立している単純ヘルペスウイルス(HSV)をモデルとして、宿主との共生の成立・維持機構を解析する。さらに、HSV潜伏感染と腸内細菌叢の相互作用に着目し、HSVを恒常性制御因子として捉えることでHSVによる感染享受の生理学的意義を多面的に解析することを目的としている。本年度は、HSVと宿主との共生維持機構に関して解析を行った。その結果、宿主との共生維持に重要と考えられるウイルス粒子形成機構を明らかにした。具体的には、HSVのヌクレオカプシドは核内で形成され、その後に核内膜をエンベロープとして被り、核内膜から核内外膜腔に出芽する。次にエンベロープと核外膜が融合することでヌクレオカプシドが細胞質に放出される。HSV-1がコードするUL31およびUL34によって構成されるnuclear egress complex(NEC)はこの核膜間のウイルス粒子形成に極めて重要であることが知られている。本年度は以下のことを明らかにした、(i) NECは六量体を形成するが、その六量体間が角膜の変性および核膜間のウイルス粒子形成・ウイルス増殖に重要である。(ii) UL31のα-helix9は、NECとカプシドタンパク質の一つであるUL25と相互作用し、ヌクレオカプシドの核膜間ウイルス粒子への取り込みに重要である。
1: 当初の計画以上に進展している
HSVと宿主との共生維持を可能とするウイルス粒子産生機構には未解明の点が多かった。今回、これらを制御する分子メカニズムの一旦を明らかにし、ウイルス学の代表的な国際学術誌であるJournal of Virologyにおいて発表した。
本年度に引き続き、HSVの宿主との共生維持機構に関して、現在進行中であるHSVの宿主免疫回避機構や潜伏感染維持機構を中心に解析を行い、その分子メカニズムを明らかにする。また、既に実験系を構築しているマウスにおけるHSV潜伏感染モデルを用いて、HSV潜伏感染の生理学的意義を、腸内細菌叢への影響を基軸として多面的に解析する。
すべて 2019 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Journal of Virology
巻: 93 ページ: e01290-19
10.1128/JVI.01290-19
Mucosal Immunology
巻: 12 ページ: 1391~1403
10.1038/s41385-019-0203-z
巻: 93 ページ: e00498-19
10.1128/JVI.00498-19
http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/Kawaguchi-lab/KawaguchiLabTop.html