本研究領域の目的である「従来、病原性因子の一つとして捉えられているウイルスを、地球生態系の構成因子として捉え直し、地球生態系の恒常性維持機構に果たす意義を解明する」を鑑み、宿主に終生潜伏感染するという高度な共生関係を確立している単純ヘルペスウイルス(HSV)をモデルとして、宿主との共生の成立・維持機構を解析する。さらに、HSV潜伏感染と腸内細菌叢の相互作用に着目し、HSVを恒常性制御因子として捉えることでHSVによる感染享受の生理学的意義を多面的に解析することを目的としている。 本年度は、HSVと宿主との共生維持機構に関して解析を行った。その結果、以下に示す宿主との共生維持に重要と考えられるリン酸化制御機構の進化に関する知見を得た。 近年、リン酸化が生物多様性へ寄与するという説が提唱されている。本研究は、ヘルペスウイルス科αヘルペスウイルス亜科の一部であるシンプレックス属に属するウイルスをモデルに、ウイルスの多様性獲得におけるリン酸化の意義を検証した。単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)を含むシンプレックス属の一部に保存される新規リン酸化制御機構を解明し、遺伝子組換えHSV-2を用いた生体レベルのウイルス増殖や病態発現能の解析、人為的に本リン酸化制御機構を獲得させた近縁ウイルスの解析やバイオインフォマティクスによる祖先ウイルスの解析を通じて、本リン酸化制御機構が、シンプレックス属のウイルス分岐に貢献してきたのではないかというユニークな知見が得られた。
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