研究領域 | ネオウイルス学:生命源流から超個体、そしてエコ・スフィアーへ |
研究課題/領域番号 |
16H06434
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡辺 登喜子 東京大学, 医科学研究所, 特任准教授 (60557479)
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研究分担者 |
河岡 義裕 東京大学, 医科学研究所, 教授 (70135838)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | インフルエンザウイルス / 共生 |
研究実績の概要 |
インフルエンザウイルスは、自然宿主であるカモなどの野生の水禽においては腸管内で増殖し、病気を発症することはない。長年にわたるインフルエンザウイルスと水禽の共生関係を考えると、本ウイルスが自然界において知られざる役割を有することは自明である。そこで本研究では、インフルエンザウイルスと水禽との共生が、水禽の腸内環境に与える影響を調べるため、腸内微生物叢のメタゲノム解析を行う。また、本ウイルスとの共生が、水禽の免疫系や生命活動に及ぼす影響を明らかにする。さらに、カモなどの水禽類のゲノムにおけるインフルエンザウイルス由来の遺伝子配列の網羅的検索を行う。 インフルエンザウイルスとの共生が、水禽の腸内環境に与える影響を調べるため、腸内微生物叢のメタゲノム解析を行う。本年度は、平成28年度に日本国内の湖沼で採取した水禽の糞便サンプルのメタゲノム解析を行った。しかし、野外で採取した糞便においては、インフルエンザウイルス陽性サンプルが得られなかった。そのため、カモを用いた感染実験を行い、非感染群および感染群より糞便サンプルを採取した。今後メタゲノム解析を行う予定である。 不顕性感染のメカニズム解析を行うにあたり、新しい顕性感染モデル(ハムスター、マイクロミニピッグ、マーモセット)を確立した。また2017年に中国で人から分離された高病原性H7N9鳥インフルエンザウイルスの感染によって、顕性モデル動物であるマウス、フェレット、サルは症状を示すことが分かった。アフリカ・シエラレオネ共和国において、水禽の糞便サンプルを採取した。鳥インフルエンザウイルスの分離中であるが、現在までのところウイルスは分離されていない。 今後は本サンプルを用いたバイローム解析を試みる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、インフルエンザウイルスと水禽との共生が、水禽の腸内環境に与える影響を調べるため、腸内微生物叢のメタゲノム解析を行う。また、本ウイルスとの共生が、水禽の免疫系や生命活動に及ぼす影響を明らかにする。さらに、カモなどの水禽類のゲノムにおけるインフルエンザウイルス由来の遺伝子配列の網羅的検索を行う。平成29年度は、これまでに採取した糞便サンプルのメカゲノム解析を行った。しかし、野外で採取したサンプルからはインフルエンザウイルスが分離されなかったため、カモを用いた感染実験を行なった。今後、非感染群と感染群から採取した糞便サンプルのメカゲノム解析を行う予定である。また不顕性感染のメカニズム解析を行うにあたり、新しい顕性感染モデルを確立した。今後の研究に大いに役立つことが期待される。さらに野生動物のバイローム解析用に、アフリカ・シエラレオネの水禽から数百個の糞便サンプルを採取した。今後、次世代シークエンス解析によって、新規ウイルスの探索を試みる。以上の結果が得られたことから、本研究は、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き、平成29年度に感染実験したカモから採取した糞便サンプルを用いて、腸内微生物叢のメタゲノム解析を行う。インフルエンザウイルスを保有している個体と保有していない個体における腸内微生物叢の違いを調べる。また、それぞれの個体における、免疫系や代謝系などの生体機能の違いを調べるために、感染後の免疫応答などの宿主応答解析(トランスクリプトーム解析)や生体中の内因性代謝物を調べるメタボローム解析を行う。さらに国内外において、引き続き水禽や野生動物からのサンプリングを続け、新規ウイルスを探索するためのバイローム解析を行う。また不顕性感染のメカニズムを解析するため、鳥インフルエンザウイルスを、不顕性感染モデルと顕性感染モデルに感染させ、比較解析を行う。
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