研究実績の概要 |
鉱山地帯の河川流域に自生するハクサンハタザオ(Arabidopsis halleri)は, 多年生植物であり, 開花後に葉腋から新苗を生じ, 近傍の土壌に定着して群落を形成する. 明瞭な病徴を示していないハクサンハタザオから単離されたキュウリモザイクウイルス(CMV)のHo7-2c系統[以下CMV(Ho)]は, シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)にも不顕性感染した. この不顕性感染に関わるウイルス因子は, CMVがコードする2bタンパク質であることが見出した. さらに, 病原性CMV(Y)とCMV(Ho)[2bタンパク質の2箇所に置換変異あり]の2bタンパク質のRSS活性に, 明瞭な差は認められなかったことから, 2bタンパク質の2箇所(77と106残基または21と77残基)のアミノ酸の相違が, 不顕性感染を決定していた. この2bタンパク質は, 宿主植物のウイルス防御システムであるRNAサイレンシングを抑制するサプレッサー(RSS)の機能を持つことが知られているが, RSS活性は不顕性感染に無関係であった. さらに, Co-IP解析により, 不顕性感染を決定しているCMVの2bタンパク質と, 低分子RNAの生成に関わるRISC複合体のAGOタンパク質が直接結合をすることが見出された. したがって, CMV(Ho)不顕性感染植物では, 2bタンパク質がAGOタンパク質の機能に影響を与えることにより, 環境ストレス耐性などに寄与している可能性が示された. 2bタンパク質-AGOタンパク質相互作用は, 宿主植物の低分子RNA代謝の変動や宿主植物のゲノムDNAのメチル化レベルの変動を誘導している可能性を示唆している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CMV(Ho)に不顕性感染に関わるウイルス側の因子は, CMV RNAのゲノムにコードされている2bタンパク質であり、その2bタンパク質と, 低分子RNAの生成に関わるRISC複合体のAGOタンパク質が直接結合をすることを見出した. 無病徴感染を決定しているウイルス因子と宿主候補因子を決定できたことは, 今後の研究の進展に対して、非常に重要な知見を提供することになるため, 本課題研究はおおむね順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
シロイヌナズナのゲノム上にはAGOタンパク質をコードする遺伝子が10コピー存在している(AGO1~10)ことから, 2bタンパク質とAGO1~10タンパク質との結合について, さらに詳細に解析を進める. 2bタンパク質-AGOタンパク質相互作用による宿主植物の低分子RNA代謝の変動に関わる可能性が考えられる. したがって, Co-IPにより単離された2bタンパク質-AGO複合体から低分子RNAを精製し, NGS解析によるRNA分子種の解析を進る. さらに, 2bタンパク質-AGOタンパク質相互作用は, 宿主ゲノムのメチル化レベルを制御しているとの知見もあることから, CMVが不顕性感染したシロイヌナズナにおけるゲノムDNAのメチル化/脱メチル化レベルの変動についても, 合わせて解析する。
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