研究領域 | ネオウイルス学:生命源流から超個体、そしてエコ・スフィアーへ |
研究課題/領域番号 |
16H06437
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
長崎 慶三 高知大学, 教育研究部総合科学系黒潮圏科学部門, 教授 (00222175)
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研究分担者 |
横川 太一 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋生命理工学研究開発センター, 研究員 (00402751)
外丸 裕司 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 瀬戸内海区水産研究所, 主任研究員 (10416042)
木村 圭 佐賀大学, 学内共同利用施設等, 講師 (30612676)
緒方 博之 京都大学, 化学研究所, 教授 (70291432)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | ウイルス / ウイルス系統組成 / 外洋域深海生態系 / 赤潮 / 巨大ウイルス / 水圏微生物 / 珪藻 / ウイルスデータ解析システム |
研究実績の概要 |
1)海産藻類ブルーム中に共存するウイルスの探索: FLDS法の適用により,渦鞭毛藻ブルームから新規dsRNAウイルスのゲノム検出に成功した。植物・菌類・昆虫類を宿主とする既知dsRNAウイルスとの相同性は低かった。2)赤潮終息とその後の生態遷移に際しウイルスが果たす役割の解明: 大阪湾試水から検出された1352の完全長ウイルスゲノムのグルーピングにより,これらのほとんどが新規のウイルスであり,計600の新属に対応することを明らかにした。この結果から,海洋ウイルスが海洋微生物の安定的存在ならびに有機物の循環に大きく貢献している可能性を示した。3)外洋深層海水試料等からのウイルス分取とゲノム解析:大西洋および太平洋外洋深層(約4000m)の海水試料より,セルソーターを用いてdsDNAウイルスを分取・全ゲノム増幅後,解読を行った。得られたNGSデータの解析により,外洋域深海生態系のウイルス系統組成の解明を目指している。4)四万十川上流~河口域の付着珪藻等のウイルス探索:四万十川流域の珪藻を含む付着生物群集のFLDS解析により,淡水の珪藻群集内にも海産珪藻RNAウイルスに高い相同性を示す配列が存在することを示した。5)珪藻ウイルスの性状ならびに生態学的戦略の解明:珪藻個体群中において,分裂速度の低下した細胞が,速やかにウイルス感染によって死滅・分解され,生残している個体群の栄養塩として環流している可能性を抽出した。6)新規かつ有用なウイルスデータ解析システムの開発:ウイルスゲノムのプロテオミックツリー作成用システムViPTreeを作成,また自動分類法 VirClassについてのアルゴリズムを設計し,その性能確認を行った。7)巨大ウイルスのゲノム情報ならびに感染戦略の解析:メデューサウイルス,青枯病菌のジャンボファージ,渦鞭毛藻感染性大型DNAウイルス等のゲノム解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本計画研究課題は,当初の研究計画に従い,新領域「ネオウイルス学」に求められる,従来のウイルス学にはなかった水圏ウイルスを巡る新事実を着々と蓄積しつつある。この点に鑑み,「概ね順調に進捗している」と判定した。その調査範囲は,河川・沿岸域から外洋・深海域まで広範に亘る。これらの水域でウイルスが果たす生態学的役割はきわめて興味深く,地球科学的にも重要な情報になると考えられる。 過去のウイルス学では,基本的には「病原ウイルス」または「ウイルス病」を研究の対象としてきた。バクテリオファージの発見に派生する分子ツールの開発も含め,様々な恩恵を人類にもたらしてきた貴重な科学分野であることは言うまでもない。 一方,ネオウイルス学ではさらにその先を見据えた研究推進を図る。本研究計画の実施により,地球上に数多存在する多様な生物の細胞中に,ほぼ確実にウイルスの存在を見出すことが可能となった。また,宿主側の顕著なダメージを引き起こす感染現象はウイルスと宿主が引き起こす「目を引きやすい過激な現象」であり,本来のウイルス対宿主の関係は,よりマイルドな「共生的関係」であろうということも解明されつつある。「ウイルス」という(単に凶悪なものと考えられてきた)生命因子に関する不幸な誤解を解くに足るだけの科学的証拠が,着実に蓄積されつつある。これらは,本課題の重要な成果であるといえる。本課題をさらに推進し,水圏中のウイルスを巡る現象とそれを裏打ちするメカニズムを解明することにより,「ウイルス」の持つ病原性だけでなく,宿主との共存を果たすための様々な戦略を解き明かし,ウイルス対宿主の関係性をよりグローバルな視点から明らかにすることが可能になる。これにより,従来のウイルス学では知ることのできなかった「生態系構成因子としてのウイルスの役割・機能」,ひいては「ウイルスの存在意義」の解明が達成できるものと期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
1)主に高知県浦ノ内湾において発生した赤潮を対象に,JAMSTECで開発したFLDS法によりRNAウイルスを,また京都大学で開発したメガプライマー法により大型DNAウイルスを,それぞれ探索する。2)浦ノ内湾調査定点においてパイプホースで採取した0-5m層の水柱試料をフィルター濾過によりサイズ分画後,メタゲノム解析に供することで,各微生物画分(ウイルス,細菌,真核生物等)の多様性変動にどのような影響を及ぼすかに関する調査を継続する。3)外洋深層海水試料等からのウイルス分取とゲノム解析を継続実施し,現在のウイルス多様性に関する理解レベルが,依然として氷山の一角を対象としたものに過ぎないということを明確に示す。とくに,外洋域深海生態系におけるウイルス系統組成を明らかにし,その存在意義についても考察を試みる。4)地球上で,水と光がある場所には必ず存在するといわれている珪藻をターゲットとすることで,珪藻を軸として様々な河川から海洋まで,多様な環境における宿主対ウイルスとの関係性を探る。とくに,上流域における珪藻活動とウイルスの関係が,ウイルスを通して下流の珪藻群集にどのような影響を与えているのかについて考察する。5)海洋環境下において,感染性ウイルス存在下にも関わらず珪藻が長期間に亘りブルームを維持できるという事象の根拠を明らかにする。とくに,弱った珪藻細胞をウイルスが選択的に殺すという過程が,珪藻のブルーム形成と維持に欠かせない環境機能である可能性について,「珪藻が細胞レベルでウイルス感染をキャンセルできる(逃れる)能力を持つ」という作業仮説の下で吟味を行う。6)環境ウイルスゲノムを解析するための必要不可欠なウイルスゲノム解析システムの開発を継続的に進め,ネオウイルス学の進展に寄与する。7)巨大ウイルスのゲノム情報ならびに感染戦略の解析を継続して実施し,その生態学的役割を考察する。
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備考 |
JAMSTEC http://www.jamstec.go.jp/rcmb/j/member.html
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