研究領域 | 複合アニオン化合物の創製と新機能 |
研究課題/領域番号 |
16H06440
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
林 克郎 九州大学, 工学研究院, 教授 (90397034)
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研究分担者 |
八島 正知 東京工業大学, 理学院, 教授 (00239740)
木本 浩司 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点, 副拠点長 (90354399)
吉田 朋子 大阪市立大学, 複合先端研究機構, 教授 (90283415)
桑原 彰秀 一般財団法人ファインセラミックスセンター, その他部局等, 主任研究員 (30378799)
稲田 幹 九州大学, 中央分析センター(筑紫地区), 准教授 (40624979)
野田 泰斗 京都大学, 理学研究科, 助教 (00631384)
山本 隆文 京都大学, 工学研究科, 助教 (80650639)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 複合アニオン / 回折法 / 電子顕微鏡 / X線吸収分光 / 核磁気共鳴 / 理論計算 / 高圧合成 |
研究実績の概要 |
複合アニオン化合物の評価は、従来の研究様式が通用せず、評価・解析手法が全く確立していない。このような状況を打破して、複合アニオン化合物の構造・状態評価に的確に対応できる研究体制を構築することを全体目標としている。本年度7月より開始し、複合アニオン系に随伴する評価にかかわる課題の洗い出しと、その解決のための複数の研究グループ間の構造・状態の評価研究体制を構築に努めた。 対象とする物質系や機能として、種々の系の検討を行った。結晶などの構造からは、酸窒化物系や酸水素化物系のペロブスカイト系の化合物、ポリアニオン化合物、複合ハライド塩、アニオン包接化合物、二次元層状化合物などを取り上げ、新規物質系の発見にも多数至っている。プロセスとして領域の合成設備を活用した高圧合成や、領域内での知見交換で得られる固相還元法を用いている。また出口となる機能として、蛍光材料、酸化物やLi,Na系のイオン伝導材料、可視光応答光触媒材料、イオン電池電極材料を想定している。 評価体制として、詳細な結晶構造解析を実施するための微小単結晶X線回折装置を立ち上げた。また脱ガス分析計測系を導入した。走査透過電子顕微鏡法の一種である高分解能電子顕微鏡の環状暗視野法による構造解析を開始した。大気に暴露できない物質の固体高分解能核磁気共鳴法(NMR)の測定を可能にする装置を開発した。NMRでは、Liイオン伝導や水素化物イオン配置の解析などへも展開した。高圧下での相転移挙動の計測を確立した。また第一原理計算によって、複合アニオン系を対象とした安定配置の網羅的探索法による解明、熱力学的安定性の評価、電極活物質の電極電位の評価に展開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
専門家が連携した複合アニオン化合物の構造・状態の評価体制の構築、研究の共通の課題として、識別が困難なO, N, F, Hアニオンの評価方法論の確立、結晶の配位多面体中のアニオンの配置幾何(trans-, cis-配置)の評価、共通設備の活用を掲げており、H30年度では、目標が共同研究を中心になされた各テーマを介して達成され、それらを統合し発展させた。班内・班間との共同、その場計測技術や理論計算による複数の解析技術の融合など、共同解析体制による成果を得る事が出来た。今後とも、質・量ともに拡大する事が見込まれる。 例として、走査型電子顕微鏡法(STEM)において環状暗視野(ADF)像による定量の高精度化理論を確立し、軽元素を主体とするアニオンの定量解析の基盤とした。また電子エネルギー損失分光法(EELS)による、光触媒活性に関与する酸化物中のN3-の電子状態分布可視化や、回折法でO2-/F-識別法を確立するなど、複合アニオン解析として掲げた課題の多くを達成した。 共通の課題として、実験および理論の共同により配位多面体幾何を解明している。ペロブスカイト系の複数の化合物系を対象として、理論計算との共同によるcis- trans-幾何の決定など、当初申請課題の局所幾何の評価に関する新しい方法論を開拓して、複合アニオン系での知見蓄積を加速させている。このような配位幾何の知見は、誘電性や光学特性、今後、注力してゆくイオン伝導性等の理解に重要な役割を果たすと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
H31年度研究体制では、これまで協力研究者として参画していた大阪大学の設楽助教を、分担研究者として計算科学の分野により注力する体制とする。 研究期間中の中盤以降に設定した課題は一部前倒しで進められており今後とも継続発展させる。それらの中で、より高度な解析法(局所配位、オペランド計測、独自手法)、一般化(異なる複合アニオン系の理解、評価計測法)、ダイナミズム(導電経路、合成経路)に注力する。 アニオン特有の動的性質に着目し、複合アニオン化合物の合成時や改質時のin situ測定、および触媒やデバイス動作時のoperando計測により、光触媒中のアニオン種の反応ダイナミクスを、XAFSその場測定と理論計算の共同によりの解釈を得る。また、材料機能性に関して、アニオン伝導体や電気化学活物質において高温中性子回折-MEM解析によりイオンの伝導経路を可視化する。また、固体NMRと理論計算の共同により、イオン伝導経路と伝導機構を明らかにする。合成プロセスの解析、結晶の単純アニオン二元系を起点に未踏領域であった低次元物質、ナノ材料、表面の解析への展開を加速する。 領域内での合成例も増加している新奇酸水素化物に対して、中性子回折測定、NMR、理論計算を用いた解析法の一般化、超高圧NMRプローブの開発と測定法の展開を加速する。H-の同定と局所配位構造決定法を体系化して確立する。また、これらの酸水素化物の知見を統合して、酸水素化物設計と機能発現指針を得る。
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