研究領域 | 生物合成系の再設計による複雑骨格機能分子の革新的創成科学 |
研究課題/領域番号 |
16H06445
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研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
濱野 吉十 福井県立大学, 生物資源学部, 教授 (50372834)
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研究分担者 |
山中 一也 関西大学, 化学生命工学部, 准教授 (30756870)
丸山 千登勢 福井県立大学, 生物資源学部, 講師 (20452120)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | ポリカチオン / 細胞膜透過性 |
研究実績の概要 |
ポリカチオン性化合物は、高極性でありながら高い生体膜透過性も併せ持つことが知られている。そこで本研究では、「①生体膜透過性・水溶性に問題がある既存薬物」、「②微生物未利用遺伝子から創出する新規機能性低分子」の2種の低分子化合物について、ポリカチオン化修飾による生体膜透過性と水溶性の一挙改善を目指す。本研究の目的達成のために、研究項目A、研究項目B、研究項目Cの計3つの研究項目を毎年度行なっている。 平成30年度は、クリックケミストリーに利用できるazide基をoligo(β-Lys)にアミド結合で導入するOrf19を用いた酵素法を確立した(研究項目A)。さらに、抗がん剤であるドキソルビシンをポリカチオン修飾し、高い水溶性を付与できることを確認した(研究項目C)。しかし予想に反し、抗がん活性の向上は観察されなかった。前年度に新規ポリマーとして見出したε-ポリ-β-リジンとγ-ポリ-D-ジアミノブタン酸の最適な生産培養条件を確立した(研究項目B)。βホモリジンを含有するレゾルマイシンの生合成遺伝子群を同定し、非リボソーム型ペプチド合成酵素遺伝子について一部機能解析を行った(研究項目B)。微生物ゲノムマイニングと生合成遺伝子群の機能解析によって、新規機能性低分子(新規ストレプトスリシン類縁抗生物質)を創製した(研究項目B)。ポリカチオン修飾する機能性低分子としては、既存薬物以外に、微生物未利用遺伝子から創出する新規機能性低分子をターゲットにしている。そこで、本研究に必須な技術であるin vivoクローニングを基盤とした異種発現システムの構築とその効率化を行った(研究項目B)。さらに、物理化学的な生体膜透過性の評価法を確立するために、油相/水相界面での電気分析法の基本技術を開拓した(研究項目C)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【研究項目A】azide基、alkyne基、thiol基などクリックケミストリーに利用できる官能基(クリック官能基)をε-PLへ導入する微生物変換法を確立し、特許出願した(PCT/JP2018/031153)。また、培養液からクリック官能基を持ったε-PLを低コストに精製する手法を確立した。クリック官能基をoligo(β-Lys)にアミド結合で導入するOrf19を用いた酵素法を確立した。
【研究項目B】微生物ゲノムマイニングによって、新規ポリカチオンポリマーとしてε-ポリ-β-リジン、およびD体ポリカチオンポリマーとしてγ-ポリ-D-ジアミノブタン酸を同定した。βホモリジンを含有するレゾルマイシンの生合成遺伝子群を同定し、各遺伝子および生合成酵素の機能解析を進めている。微生物ゲノムマイニングと生合成遺伝子群の機能解析によって、新規機能性低分子(新規ストレプトスリシン類縁抗生物質)を創製した。
【研究項目C】モデル化合物として蛍光色素(FAM)をε-PL修飾したところ、FAMの水溶性が向上するとともに、動物細胞の細胞膜を透過し、細胞内に直接送達されることが判明した。したがって、化合物のε-PL修飾は、化合物の水溶性と細胞膜透過性を一挙に改善できることを証明した。抗真菌抗生物質アムフォテリシンB (AmpB)は、臨床上極めて重要な医薬品であるが、難水溶性のため腎毒性などの問題点がある。そこで、AmpBをε-PL修飾したところ、興味深いことに抗真菌活性を維持させながら高い水溶性を付与することができた。ドキソルビシンも同様にε-PL修飾を行ったが、予想に反して、細胞毒性の低下が観察された。 以上、研究項目全体としては、当初の計画通りに進展している。
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今後の研究の推進方策 |
【研究項目A:ポリリジン不飽和アルコールエステルによる機能性低分子のポリカチオン化修飾】azide基、alkyne基、thiol基などのクリック官能基をε-PLに導入する微生物変換法を確立しているが、thiol基については変換効率を改善する余地が残っている。そこで、thiol化合物と培養条件を再検討し、ε-PLへのthiol基導入の効率を改善する。Orf19によるoligo(β-Lys)-PEG-azideの酵素合成反応条件を最適化し、さらにその精製条件を検討する。
【研究項目B:微生物ゲノムマイニングによる新規ポリカチオン化合物の探索および新規機能性低分子の創製】研究分担者の山中は、酵母のin vivo相同組換え能を利用したTransformation-Associated-Recombination(TAR)と呼ばれる手法を応用し、研究対象とする長大な二次代謝産物生合成遺伝子群をゲノムライブラリーの構築を経ることなく微生物ゲノムから直接かつ過不足なくベクターへクローン化し、異種発現宿主へ移植する手法を開発している。そこで、このTAR法をさらに効率化し、生合成遺伝子クラスターのクローニングと異種発現系を効率化する。 TAR法によってクローニングしたレゾルマイシンの生合成遺伝子群の機能解析を行う。特に、βホモリジン構造の生合成について詳細に解析する。
【研究項目C:ポリカチオン化機能低分子の細胞膜透過性および機能発現評価】これまで、既存の低分子医薬品であるドキソルビシン、バンコマイシンについてε-PLによるポリカチオン修飾を行い、水溶性と動物細胞内への取り込みを評価してきた。そこで次に、ダプトマイシンについてε-PL修飾法を検討し、中分子医薬品に対するε-PL修飾の有効性を検証する。
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