計画研究
本研究課題では、ポリケタイド系天然物の生合成マシナリーをリデザインして潜在的生物活性ポリケタイドを創製することを目的とする。具体的には、①数ある天然物生合成酵素の機能解析の中でも最難関の課題の一つとして位置づけられている骨格構築酵素PKS(-NRPS)の反応制御機構の解明と自在な機能制御、②修飾酵素の精密機能解析とそれを利用したポリケタイド鎖の構造多様化、③生合成システムの人為的再構築による複雑骨格多官能性分子の酵素合成の実現に取り組む。昨年度までの3年間で、①と②について検討した。実験開始以降、PKS-NRPSのような12 kbpを超えるサイズの遺伝子を麹菌へと導入する際には、①遺伝子の導入効率が悪いこと、②遺伝子の導入位置の制御が困難であること、が問題点として浮かび上がってきたため、2年目にはCRISPR/Cas9(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats/ CRISPR-Associated Proteins 9)システムによるゲノム編集技術を利用した遺伝子導入法を確立し、3年目にはin vivoでのドメイン交換に成功した。これにより、新たに浮かび上がってきた課題を解決するための技術的基盤を構築するに至った。また、本手法を他起源由来の生合成酵素(チトクロームP450、転移酵素、環化酵素など)の機能解析に応用することで、特徴的な化学反応を触媒する環化酵素や修飾酵素の機能解析に成功した。
2: おおむね順調に進展している
PKS-NRPSは、炭素鎖の伸長と修飾を厳密に制御する複数の機能単位(=ドメイン)から構成される多機能性酵素であり、その複雑な多段階反応の解析には、①個々のドメインの機能解析、②ドメイン間の相互作用の解明が必要不可欠であり、これにはドメイン交換実験が有効である。麹菌異種発現系を用いれば、生成した化合物の化学構造からドメインを交換した場合の機能の変化を類推することができる。しかしながら、初年度の検討により、所期の代謝産物を生産する形質転換体のスクリーニングが本実験を進める上でボトルネックとなることがわかってきた。この問題を解決するため、ゲノム編集技術を利用した遺伝子導入法を検討し(A02班との共同研究)、導入効率の改善やin vivoでのドメイン交換に成功した。また、本手法を他起源由来の骨格構築酵素遺伝子や修飾酵素遺伝子の機能解析に応用することで、糸状菌由来のアブシジン酸生合成における特異な環化酵素とチトクロームP450、子嚢菌由来のジテルペン・リボソーマルペプチド生合成における環化酵素・チトクロームP450(A02、A03班との共同研究)などに成功した。当初は想定していなかった問題が生じたために骨格構築酵素PKS-NRPSの機能解析では若干の遅れがあるが、①ゲノム編集技術を利用した遺伝子導入法を確立したこと(論文投稿中)、②in vivoでのドメイン交換に成功したこと、③構造多様化へ向けた他起源由来の天然物生合成酵素遺伝子の機能解析では着実に研究成果が得られていること(昨年度:7報の原著論文が受理)、④他班との共同研究が成果として結実していることなど(昨年度:4報の共著論文が受理)から、本研究は概ね順調に進展しているものと判断している。
昨年度の検討から、CRISPR/Cas9システムのもう一つの特徴である任意の位置での遺伝子切断と遺伝子導入を応用することで、既に構築した形質転換体のもつPKS-NRPS遺伝子に対するin situでのドメイン交換が実施可能であることがわかった。本手法の特徴は、機能しているPKS-NRPSのドメインを麹菌内で交換するため、代謝産物生産株のスクリーニングが不要であることが挙げられる。従って、ドメイン交換のための部品を準備するだけで、網羅的なドメイン交換実験が行える準備が整った。昨年度の後半から予備的な検討を進めており、本年度は、端緒となる実験データが得られたドメインに注目して実験を進める予定である。併せて、部品となり得るPKS-NRPSの機能解析や対象としたドメインのクローニングを進める。また、上述した遺伝子導入法は、他起源由来の生合成酵素(チトクロームP450、転移酵素、環化酵素など)の機能解析を迅速に行う上でも効果的であることがわかってきた。これまでの3年間で積極的に共同研究を行ってきたが、本年度は他班との連携をより強化して、興味深い化学反応を触媒する生合成酵素遺伝子の機能解析を積極的に進める予定である。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (21件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
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