計画研究
S. avermitilisの1次代謝の遺伝子欠損株としてペントースリン酸経路を抑制したtransaldorase遺伝子(tal)破壊株を取得した。昨年度作製したpfkA欠失株ではシキミ酸経路によって生成されるchloramphenicolの生産量が培養後期で促進されていたがtal欠失株ではchloranphenicolの生成は抑制されていた。なお、同じくシキミ酸経路から生成するtryptophanを構造中に有するactinomycin Dの生成はpfkAおよびtal欠失株ではその生成が抑制傾向であったが、特にpfkA欠失株では抑制が強かった。これらのことはchloramphenicolは唯一シキミ酸経路から生成するphenylalanineを利用しているが、actinomycin Dでは他の経路によって生成するアミノ酸も生合成には必須であり、pfkA欠失によってtryptophan以外のアミノ酸生成が抑制されたものと推察された。一方、2次代謝産物生合成遺伝子群の多くは生合成遺伝子群の中あるいは隣接して存在する制御遺伝子によって発現が調節されている。今回、I型PKSによって生成される抗菌マクロライド(tylosin, spiramycin, leucomycin)のそれぞれの生合成遺伝子群の制御遺伝子の発現がそれぞれの生合成遺伝子群の発現に影響があるかを検討した。I型PKS遺伝子を含む生合成遺伝子群は非常に巨大であり100 kbpを越すものが多い。我々の開発した異種発現系では100 kbpを超えるこれらの生合成遺伝子群の安定な発現が期待できる。これまでの結果、tylosin生合成遺伝子の発現は遺伝子群内の制御遺伝子tylRで調節されるがspiramycin生合成遺伝子群の制御遺伝子srmSでも調節されることが判った。
2: おおむね順調に進展している
これまで生産菌の1次代謝を改変して2次代謝産物の生成への影響を確認する研究は、詳細なゲノム情報が得られている菌株がほとん報告されていなかったため行われていなかった。ゲノムの詳細が明らかにされ、かつ2次代謝産物の異種発現系が構築されているS. avermitilisでの解糖系とペントースリン酸経路のそれぞれの欠失株を作製することによって、2次代謝産物の生成への影響を検討した。それぞれの遺伝子欠失株ではglucoseからacetyl-CoAまでの代謝を解糖系あるいはペントースリン酸経路で代謝できるように設定させることができた。多くの2次代謝産物の生成はほとんど変化がなかったことから、1次代謝のrobust性によるものと推察された。2次代謝産物は複数の前駆体を用いて生合成されていることが多く、単一の前駆体の聖性のみを上昇させる事ではそれほどの変化が期待できない。一方、chloramphenicolのようなペントースリン酸経路のerythrose-4-リン酸からシキミ酸経路を経て生成される化合物の生成では解糖系を抑制し、ペントースリン酸経路に代謝の流れを変えた状況では有意に増産が認められた。また、ペントースリン酸経路はNADPHの供給源としても2次代謝産物生合成には関与している。このように前駆体の供給を適正に整えることによって2次代謝産物の生成を上昇させることは可能であることが初めて明らかとなった。一方、異なる生合成遺伝子群の制御遺伝子が他の生合成遺伝子群の発現を調節した例は今回初めての例である。この成果は他の2次代謝産物生合成にも適用できるかどうは非常に興味のもたれるものである。
異なる生合成遺伝子群の制御遺伝子が他の生合成遺伝子群の発現を調節することに関しては、異種2次代謝産物生合成遺伝子群の組み合わせによる非天然型代謝産物の生成の検討を行っている過程で発見した成果である。このような異なる生合成遺伝子群の制御遺伝子による制御の報告例は未だない。今回の結果はS. avermitilisの異種発現系を用いてI型PKSで生成されるmacrolide化合物の遺伝子群の組み合わせで発見したものであるため、それぞれの生産菌での効果が異種発現系と同様であるかどうかを確認していきたい。同様なことがI型PKSのみならず他の系統の2次代謝産物でも存在するのかも検討して行ってみたい。なお、当初の目的である異種2次代謝産物生合成遺伝子群の組み合わせによる非天然型代謝産物の生成では既に生成物を確認している。新規な骨格を有する化合物の生成も確認できており、これらの化合物を単離精製しそれぞれの構造を明らかにしたい。また、生成量も良好であるため生物活性の比較が可能な量を単離して、天然物との生物活性の差を検討したい。
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すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 2件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
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