計画研究
微生物を起源とする天然物の多くは特異な生物活性を有し、今日の医薬品開発や生化学研究において多大な貢献をもたらしてきた。近年、地球上に生息する微生物のうち99%以上は現在の技術では培養困難であることが示され、これらの微生物は培養に依存した従来の方法では利用困難な状況にある。未利用かつ莫大な生物資源を有効活用するためには、入手可能な遺伝子資源を基盤とする手法の開発が不可欠である。本研究では、多様な医薬品資源の生産能を有する海綿共生微生物に着目し、その遺伝子資源を利用した二次代謝産物の異種生産、大量安定供給の確立を目指す。本研究で確立を目指す技術は海綿共生微生物のみならず、地球上の大部分を占める未利用生物資源、難培養微生物に由来する二次代謝産物の有効利用方法を提示するものである。平成28年度は海綿Discodermia calyxのメタゲノム解析によって入手した生合成遺伝子クラスターより、特異な修飾反応を担う酵素類に着目し、海綿由来ポリケタイド、ペプチド類の詳細な生合成機構の解析を進めた。特にcalyculin A生合成過程のKR domainの立体選択性、酸化的減炭過程の解明やニトリル生合成経路の解析。Calyxamideのα-ケトアミド構造の生合成機構やkasumigamide生合成遺伝子のA domainの基質特異性や開始モジュールの反応機構について、それぞれの修飾過程の担うことが予想される生合成酵素を大腸菌で異種発現し、推定基質を有機合成によって調製し、酵素反応の解析を進めている。その結果、異種バクテリアに共通して存在するkasumigamide生合成遺伝子を見出すとともに、calyculin Aのポリケタイド鎖の減炭反応を担うことが予想される酸化酵素CalDの機能解析において、酵素反応生成物を検出することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
今年度はすでに得られている海綿Discodermia calyx由来生合成遺伝子クラスターの機能解析を試みた。我々はすでにcalyculinおよびkasumigamideの生合成遺伝子クラスターを海綿メタゲノムDNAより取得している。これらの遺伝子クラスターはいずれも海綿に共生するEntotheonella属のバクテリアにコードされていることを明らかにした。そこでさらにkasumigamideの生合成遺伝子の機能解析を進めた。Kasumigamideは淡水性のシアノバクテリアMicrocystis aeruginosaより単離、構造決定された抗藻活性を示すテトラペプチドであり、我々はメタゲノムマイニングにより海綿D. calyxにも含まれていることを明らかにした。そこでM. aeruginosa NIES-87株を取得し、ドラフトゲノム解析を試みた。その結果、kasumigamide生合成遺伝子の候補としてNRPS-PKS hybirdの遺伝子クラスターを見出した。そのmoduleの構成単位はEntotheonellaから得られた遺伝子クラスターの構成とほぼ一致したが、orfの並びが異なっていた。そこで、各A domainを大腸菌で発現し、アデニル化反応の基質特異性を検討した。その結果、推定生合成経路に一致するアミノ酸の認識が確認できたことから、M. aeruginosa NIES-87株由来の遺伝子クラスターをksumigamide生合成遺伝子クラスターと同定した。興味深いことに、kasumigamide生合成酵素と相同性を示すタンパク質を検索した結果、Entothnella、Microcystisの他、Delftia属、Herbaspirillum属のバクテリアにも同様の遺伝子クラスターが存在することが明らかになった。これらのバクテリアはいずれも系統的に異なるバクテリアであり、kasumidemideの微生物生態における重要性が示唆される。
上述のように、これまでは海綿Discodermia calyxより取得した3種の生合成遺伝子クラスターについて、特徴的な酵素の発現を大腸菌を用いて行っている。しかしながら、それらはいずれも遺伝子クラスターの一部であり、全長の再構築、ホストへの導入は依然として大きな課題である。そこで、平成29年度より遺伝子クラスター全体の異種宿主への導入と発現を試みる。まずは比較的サイズの小さいkas遺伝子(約25 kb)全長をホストへ導入し、kasumigamideの発酵生産を試みる。我々は、生合成遺伝子スクリーニングの過程で、1つのフォスミドDNA内にkas遺伝子全長がコードされたクローンを取得している。このため、kas遺伝子発現用プラスミドは相同組換えにより容易に構築できる。kas遺伝子導入株について、上記に示した種々の検討によって得られた知見を基に発現条件を検討する。ただし、本研究で用いる遺伝子およびタンパク質は、これまでに検討してきた遺伝子断片より格段にサイズが大きく、また、open reading frame(ORF)も複数であることから、同等の結果が期待できるとは限らない。Kasumigamideの物質生産が確認できない場合は、プロモーターなどの遺伝子発現制御因子や培養条件などを検討し、異種生産の最適化を行う。その後、最適化した発現系を基に、cax遺伝子やcal遺伝子の導入の検討を進める。150 kb以上におよぶcal遺伝子は、酵母による相同組換えにより再構築する(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2008, 105, 20404)。構築した発現用遺伝子を発現ホストへ導入するが、巨大な外来遺伝子はホスト内で不安定である可能性が予想される。その場合は、安定的に導入、保持さらに発現する条件の検討を行う。
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