研究領域 | 生物合成系の再設計による複雑骨格機能分子の革新的創成科学 |
研究課題/領域番号 |
16H06448
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
脇本 敏幸 北海道大学, 薬学研究院, 教授 (70363900)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 海綿 / calyculin A / 環状ペプチド |
研究実績の概要 |
微生物を起源とする天然物の多くは特異な生物活性を有し、今日の医薬品開発や生化学研究において多大な貢献をもたらしてきた。近年、地球上に生息する微生物のうち99%以上は現在の技術では培養困難であることが示され、これらの微生物は培養に依存した従来の方法では利用困難な状況にある。未利用かつ莫大な生物資源を有効活用するためには、入手可能な遺伝子資源を基盤とする手法の開発が不可欠である。本研究では、多様な医薬品資源の生産能を有する海綿共生微生物に着目し、その遺伝子資源を利用した二次代謝産物の異種生産、大量安定供給の確立を実現する。本研究で確立を目指す技術は海綿共生微生物のみならず、地球上の大部分を占める未利用生物資源、難培養微生物に由来する二次代謝産物の有効利用方法を提示するものである。平成30年度は前年度に引き続きcalyculin A生合成過程の修飾酵素の機能解析を試みた。特にcalyculin A生合成最終段階で必須となる脱リン酸化酵素はこれまで未同定であったため、その同定を目指した。Calyculin A前駆体であるphosphocalyculin Aを基質として用いた酵素活性試験によって海綿粗酵素液から脱リン酸化酵素の単離・精製を進め、LCMS/MSによるペプチド断片配列の解析によって、脱リン酸化酵素がcalyculin生合成遺伝子クラスターにコードされるCalLである事を明らかにした。今後はさらに詳細な機能を解析するとともに、海綿組織の障害を起点としたCalLの作動機構を検討する。さらに昨年度は同定した新規ペプチド環化酵素SurEの機能解析を試みた。SurEは環状オクタペプチドsurugamide A-Eのみならず、surugamide Fの環化も触媒し、新たな誘導体cyclosurugamide Fを生産する事を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海綿粗酵素液からphosphocalyculin A特異的脱リン酸化酵素の同定を目指した。海綿粗酵素液は海綿D. calyxをTEAバッファーで抽出、脱塩し、粗酵素液とした。脱リン酸化活性を指標に硫安分画、アセトン沈殿、エタノール沈殿を試みたが、効率的な分画には至らなかった。そこで各種クロマトグラフィー法による分画を試みた。その結果、主要な脱リン酸化活性画分は陰イオン交換樹脂に吸着されず、陽イオン交換樹脂に保持されることがわかった。この知見より、目的とするphosphocalyculin脱リン酸化酵素は塩基性タンパク質であることが予想された。さらに陽イオン交換カラムで溶出した活性画分をPhenyl Sepharoseカラムにより分離し、得られた活性画分をSephacryl S200によりゲル濾過に付した。最終的にMono Sを用いた陽イオン交換カラムクロマトグラフィーによって活性画分を得た。SDS-PAGEの結果、活性画分には分子量約43 kDaのタンパク質が含まれることがわかった。上記の検討をもとに、再度calyculin生合成遺伝子クラスターにコードされる修飾酵素群に着目すると、海綿粗酵素液から分画したphosphocalyculin脱リン酸化酵素の性状はCalLと非常に類似していることがわかった。そこでSDS-PAGEの該当するバンドを切り出し、trypsin消化後、ペプチド断片のLC-MS/MS解析を行った。その結果、活性画分の約43 kDaの主要なバンドからCalLと同一のアミノ酸配列が確認できた。したがって、phosphocalyculin脱リン酸化酵素はCalLである可能性が高まった。さらに海洋放線菌由来の鎖状ペプチドsurugamide Fの放出酵素の同定を試み、SurEが新規環状誘導体cyclosurugamide Fを生成することを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
Phosphocalyculin A脱リン酸化酵素CalLの詳細な機能解析を進める。現時点ではnative酵素の同定には成功しているが、リコンビナント酵素の活性が確認できていない。今年度は異種発現条件を検討し、リコンビナント酵素での活性発現を達成するとともに、より詳細な活性制御機構の解明を目指す。Phosphocalyculin Aの活性化機構は海綿の組織傷害が引き金になることから、物理的傷害から瞬時に伝わる下流の情報伝達機構の存在が示唆される。しかし、その機構に関しては依然として不明である。今後、脱リン酸化酵素の詳細な機能解析も含めて、引き続き検討を進める。また、calyculin Aの末端ニトリル基の生合成経路が依然として不明である。末端アミドのみを有するcalyculinamide生産海綿より生合成遺伝子クラスターを同定し、遺伝子構成の比較分析によって、候補遺伝子の絞り込みを行う。これらの検討を進め、難培養微生物由来のcalyculin Aの生合成経路の全貌を明らかにするとともに、大量発現系構築へ向けた検討を進める。 平成29年度に見出した海洋放線菌由来のペプチド環化酵素についてさらに基質特異性や機能の検討を進める。Surugamide類の生合成遺伝子クラスターには4つのNRPS酵素が関与しており、そのうち2つが環状ペプチドであるsurugamide A-E、残りの2つが鎖状ペプチドsurugamide Fの生合成を担う。前年度の研究によって、PBP-type TEであるSurEがsurugamide A-Eおよびsurugamide F生合成におけるキャリアータンパク質からの切り出しを担い、head-to-tail型の環化を触媒する事を明らかにした。。今年度はさらに詳細な基質特異性を明らかにし、希少な環状ペプチドの効率的生産に向けた新たな生体触媒の開発を進める。
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