計画研究
微生物が産生する天然物はポリケチド合成酵素、非リボソームペプチド合成酵素、テルペン合成酵素等で合成された母骨格に様々な酵素による修飾が加わることで生合成される。それら修飾酵素の中でも基質化合物の骨格を変換する酵素は天然物の多様性創出に大きく関わっている。このような基質化合物の骨格を変換する酵素の一つにシクロペナーゼがある。シクロペナーゼはcyclopeninからviridicatinへの変換を担う酵素としてLucknerらによってその存在が提唱された酵素である1が、その正体は長らく不明であった。そこで我々はシクロペナーゼの正体を明らかにするためにviridicatin類を生合成中間体とすると考えられるaspoquinolone類の生合成研究を開始した。Aspoquinolone類はAspergillus nidulansが産生する。その構造を元にして必要な生合成遺伝子を推測し、A. nidulansのゲノム中からそれらを全て含む遺伝子クラスターとしてasqクラスターを見出した。一方、penigequinolone類はPenicillium属糸状菌FKI-2140株が産生する。FKI-2140株のドラフトゲノム解読後、asqクラスターと類似な遺伝子クラスターを探索した結果、pngクラスターを見出した。化合物産生量の多いFKI-2140株の菌体破砕液から酵素活性を指標にシクロペナーゼを探索し、見出したタンパク質の大きさ、必要補因子をもとにpngクラスター中で候補遺伝子を絞り込んだ。候補遺伝子を異種宿主で発現し酵素活性を測定したところ、ヘモシアニンの銅結合ドメイン様構造を有するPngLがシクロペナーゼ活性を有していた。また、asqクラスター中の遺伝子でpngLと相同性のあるasqIを異種発現させて得られたAsqIにもシクロペナーゼ活性を確認することができた。
1: 当初の計画以上に進展している
糸状菌に関する生合成研究に関しては、以前から存在が示唆されていた変換酵素シクロペナーゼ (AsqI) 遺伝子をPenicillium sp. FKI-2140菌体から単離し組換え体酵素を得てviridicatin中間体と反応させたところ、NADP+依存的に6,6員環を持つaspoquinolone骨格への変換反応を触媒していることが確認された。その酵素活性には金属イオンが関与していることが示唆された。また、AsqIが12を14へと変換する際に、反応性が高く有毒なメチルイソシアネートが生成することも明らかとなった。さらに詳細な触媒メカニズムを解明するためAsqIのタンパク質結晶を取得することに成功し、現在、構造解析を進めている。一方、海洋微生物に関する研究では、西日本近海で頻繁に発生する『赤潮』の形成過程の生物学的ダイナミクスを環境生態学的側面から解明することを目的とした。赤潮の正体は、植物プランクトンの爆発的異常増殖である。ヘテロシグマ(学名Heterosigma akashiwo)は、このような赤潮原因藻の一種であるが、その異常増殖を引き起こす要因はいまだに特定されていない。我々は、この研究の開始前に、ヘテロシグマに随伴する細菌の分離に成功し、そのうちの幾つかはヘテロシグマの増殖を大幅に加速することを見出した。このうち、Altererthryobacter ishigakiensisはヘテロシグマの増殖を促進するとともに、ヘテロシグマと共培養することにより自身も増殖することから、共利共生関係にあることが示唆された。また、ヘテロシグマと同じラフィド藻綱に属するシャトネラと共培養しても、シャトネラの増殖は促進されないことから、A. ishigakiensisはヘテロシグマの増殖を種特異的に促進することが明らかになった。
生合成酵素の機能拡張を目的とする研究において、有機合成化学および産業利用において極めて重要なC-O形成反応の一つである水添脱アルキル化反応を触媒する酵素PhnFを見出し、現在解析を進めている。これは糸状菌由来天然物herqueinone生合成に関与する酵素として見つかった。我々は、既にPhnF発現酵素を用いたin vitro合成系によってR体のジヒドロベンゾフランのみが生成されることを明らかにしている。そこでPhnF発現酵素を大量に精製しタンパク質を結晶化した後、X線構造解析を行う。基質あるいは阻害剤を用いた共結晶構造から得られた活性部位の構造を明らかにする。得られた情報を基に、活性部位近傍のアミノ酸残基に変異を導入した変異体を酵素作製し活性を観測することで、この水添脱アルキル化反応に関与する活性アミノ酸残基を特定する。続いて、反応遷移状態を計算化学による活性化エネルギーの値と関与するアミノ酸残基から予測する。さらに、マイクロ秒レベルの分子動力学より基質―酵素の相互作用を明らかにし、エナンチオ選択性を解明する。この研究結果から、基質特異性の拡張を予測し、有機合成化学で類似基質を合成した後、酵素反応に供しエナンチオ選択的水添脱アルキル化反応が進行するかを観測する。また、上記実験結果を基に、基質許容性を拡大すべくPhnF活性部位に変異を導入、合成基質を用い反応の進行を調べ機能拡張型酵素の作製に挑戦する。機能の拡張された水添脱アルキル化反応酵素を代謝改変により異種発現において高機能化された酵母宿主を用い、大量スケールかつ安価に供給できる生産系を構築する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
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巻: 印刷中 ページ: 印刷中
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http://sweb.u-shizuoka-ken.ac.jp/~kenji55-lab/