計画研究
担子菌類は他の生物種には無いユニークな天然物を生産することが知られている。しかしながら、担子菌は種によっては研究室内での栽培や培養が困難であることや、菌糸体や子実体(キノコ)といった形態により生合成産物が変化することから、未知生合成産物がいまだ多く残されていると考えられている。また、担子菌は実験室での培養条件では二次代謝産物の生合成に関与する遺伝子の多くが休眠型であり、多くの二次代謝産物が生合成されていないと予測されている。これら遺伝子を強制的に発現させることができれば、多くの二次代謝産物を獲得することができると考えられる。そこで、本研究では担子菌二次代謝産物の生合成遺伝子の高発現系の確立を目的として、キノコのモデル生物であるウシグソヒトヨタケ (Coprinopsis cinerea) に導入する天然物生合成遺伝子と、それに付与するプロモータ配列の検討を行った。ウシグソヒトヨタケのゲノムに存在するCC1G_05377はorsellinic acidを生合成するポリケチド合成酵素をコードし、CC1G_03563はlagopodin Aを生合成するテルペン環化酵素をコードすることがすでにわかっている。そこで、ウシグソヒトヨタケの強発現遺伝子のプロモータ領域をこの生合成遺伝子に連結したベクターを作製し、ウシグソヒトヨタケを形質転換した。得られた形質転換株のorsellinic acidやlagopodin Aの生産量を調べた結果、orsellinic acidの生産量は大きく上昇することはなかったが、lagopodin Aの生産量は大きく増加した。この結果は、本手法を用いることで、キノコ由来の休眠型生合成遺伝子を強制発現することにより新規天然物の獲得に道を拓く大きな一歩となった。
1: 当初の計画以上に進展している
C. cinerea Ku3-24株を用い遺伝子破壊法を樹立することを目指した。その標的としてcop6遺伝子を選択した。まずcop6遺伝子の5´-および3´-flanking regionそれぞれ1.5 kbの間に薬剤耐性マーカーであるhphを配置した遺伝子破壊カセットを設計した。出芽酵母を用いたGap-repair cloning法にて本カセットを作成し、プロトプラスト-PEG法にてKu3-24株へと導入した。遺伝子破壊の成否についてはPCR法によって確認し、目的のcop6遺伝子破壊株を取得することに成功した。取得したcop6の代謝産物解析を行ったところ、lagopodin類およびhytoyol類の生産が完全に消失していることが確認された。なおcop6株に対して、前項目にて述べたcop6強制発現カセットを導入した株cop6+pDED1_cop6についても作成し、本株においてlagopodinとhytoyol生産能が復帰することを確認した。以上のことはlagopodinおよびhytoyolの生合成にcop6遺伝子が必要であることを示しており、Cop6の産物であるcupreneneがこれら化合物の生合成中間体であることが初めて実験的に確かめられたため。
本年度において担子菌ウシグソヒトヨタケC. cinereaを異種遺伝子発現の宿主として用いるための基礎的な検討を行った。まず、機能既知酵素遺伝子であるCC1G_05377 (PKS遺伝子)を用いて強制発現プロモーターの検討を行い、DED1、EF3等のプロモーターが有用であることを確認した。これを別の内在遺伝子cop6の強制発現へと適応し、その産物であるlagopodin類、hytoyol類の生産量を有意に増大させることに成功した。一方でC. cinereaの遺伝子破壊法が行えることを確認した。実際にcop6遺伝子の破壊を通じて、lagopodin類、hytoyol類生合成にcop6が必須であることが実証された。次年度は今年度に得られた知見をもとに、C. cinereaを宿主として別種の担子菌由来機能未知生合成遺伝子を異種発現させることを検討する。他方では、より天然物産生を志向したC. cinerea株を創出する。具体的には継続的基質供給や分解経路抑制が行われるような菌株をメタボリックエンジニアリングにより作成する。以上により、担子菌生合成遺伝子を用いた新規な天然物獲得手法の技術基盤を樹立することを目標として研究を展開する予定である。
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