研究領域 | 生物合成系の再設計による複雑骨格機能分子の革新的創成科学 |
研究課題/領域番号 |
16H06449
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
渡辺 賢二 静岡県立大学, 薬学部, 教授 (50360938)
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研究分担者 |
植木 尚子 岡山大学, 資源植物科学研究所, 准教授 (50622023)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 担子菌 / 生合成 / リデザイン / 生理活性物質 |
研究実績の概要 |
キノコ (担子菌類) は他の生物種とは異なるユニークな二次代謝産物を生産することが知られている。一方で、キノコのゲノム情報が解読されるにつれ、既にキノコより単離されている二次代謝産物よりも多くの二次代謝産物生合成遺伝子がゲノム中に存在すると示唆されたため、多くの生合成遺伝子は休眠型であると考えられた。これら休眠型生合成遺伝子を強制的に発現させることで、化学構造として新規な二次代謝産物の獲得が期待される。我々はカビ (子嚢菌類) を用いた天然物研究において、生合成遺伝子の発現を制御するレギュレーター遺伝子の過剰発現、破壊を行うことで特定の生合成経路を活性化させ、新規化合物を取得することに成功してきた。一方、キノコは遺伝子操作が一般的に困難であるため、これまでにそのような研究例は報告されていない。そこで、本研究ではキノコのレギュレーター遺伝子改変に基づく生合成経路の活性化ならびに新規化合物の獲得を目的に研究に着手し、新規生理活性物質を発見した。さらに本化合物(CPF)生合成遺伝子クラスターの同定に成功した。CPFがアシル化ヒドロキシオルニチンの3量体構造を有することから、オルニチン酸化酵素や非リボソーム性ペプチド合成酵素 (NRPS) がその生合成に関与することが予想された。C. cinereaのゲノム情報を参照すると、NRPS (Cpf1と命名) と隣接してオルニチン酸化酵素を有する生合成遺伝子クラスターが存在していた。そこで、先に作製したKOCclaeAをもとにcpf1の破壊株 (KOCclaeA/KOcpf1) を作製し、CPFの生産確認を行ったところKOCclaeA/KOcpf1ではCPFの生産が消失したためcpf1がCPF生合成遺伝子であると同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
i) レギュレーター遺伝子laeA破壊による二次代謝変動 本研究では、キノコのモデル生物で我々が遺伝子操作系を確立したウシグソヒトヨタケCoprinopsis cinereaを用いた。C. cinereaのゲノム情報をもとに、レギュレーター遺伝子を探索したところ、Aspergillus fumigatusのレギュレーター遺伝子laeAと49%の相同性を示すCC1G_00498遺伝子(CclaeA)を見出した。そこでプロトプラスト-PEG法にてCclaeAを破壊し、得られた破壊株(KOCclaeA)の化合物生産を調べた。その結果、KOCclaeAにおいて、保持時間4.7分に化合物1 (m/z 744.4871 [M+H]+)の分子イオンピークが観測された。マススペクトルから化合物1の分子式はC35H66O10N7であると推定され、データベース検索から化合物1は新規化合物であることが示唆された。 ii) 化合物1の単離・構造決定と鉄(Ⅲ)結合能評価 KOCclaeAをMYG培地(6.75 L)にて培養し、培養物の酢酸エチル抽出物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分離し、さらにHPLCを用いて化合物1を3.3 mg単離することに成功した。NMRによる構造解析を行ったところ、化合物1は3回繰り返し型のアシル化ヒドロキシオルニチン構造を含む新規化合物であることが判明した。3つのN-ヒドロキシオルニチンの絶対配置は改良マーフィー法で3種ともL体と決定した。また、化合物1はその構造から鉄に配位し鉄取り込みを促進する化合物 (シデロフォア) と予想された。単離した化合物1に対して鉄投与試験を行ったところ、鉄投与後にピークの保持時間が変化し、鉄結合体に該当するマススペクトルが観測された。以上から化合物1はシデロフォアだと決定し、coprinoferrin (CPF) 2と命名した。
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今後の研究の推進方策 |
C. cinereaは、CPFを産生・分泌することで外部の鉄を効率的に体内に取り込んでいると考えられる。そして取り込まれた鉄が菌糸成長の促進・子実体形成に重要な働きを有すると本研究から示唆された。CPFの生合成遺伝子クラスターはブナシメジなどの200種類を超える担子菌種で高度に保存されており、実際にCPF類似生合成遺伝子クラスターを有する担子菌種においてCPFの生産が確認された。また、一般に子嚢菌由来laeAは二次代謝産物生産を正に制御するのに対し、予想外にも担子菌由来CclaeAはCPFの生産を負に制御していた。本研究はLaeAタンパク質の二次代謝制御における新たな機能を世に提示するものであり、本機能の解明により生合成遺伝子の休眠・覚醒化の理解、ひいては効率的な新規天然物獲得法の樹立へとつながると期待される。
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