計画研究
本研究では、微生物二次代謝産物の生合成系の遺伝子情報の拡大に努めながら、多様な二次代謝産物の生合成系を遺伝子・酵素,反応レベルで精密に機能を解析し、これらの遺伝子情報を基盤とした生合成リデザインによる新物質生産への応用することを最終的な目的としている。本年度は、主にアミノサイクリトール抗生物質パクタマイシンおよびマクロラクタム抗生物質クレミマイシンの生合成酵素の機能解析を行った。抗腫瘍抗生物質であるパクタマイシンは、高度に修飾された炭素五員環アミノサイクリトールであり、その生合成機構は興味深い。本年度はパクタマイシン生合成の鍵段階と考える窒素原子の導入機構に着目し、in vitroでの酵素機能解析を中心として生合成機構を調べた。1つのアミノ基転移酵素であるPctC は、パクタマイシンの1 位の窒素原子の導入に関わると予想し、生合成遺伝子クラスター中に存在する脱水素酵素PctP による酸化反応とPctC によるアミノ基転移反応を検討した。その結果、N-アセチルグルコサミンのN-グリコシドの3 位の水酸基がアミノ基へと変換されることを明らかにした。さらに、N-グリコシド生成後、他の変換反応より以前に3位の水酸基がアミノ基へと変換されることが分かった。マクロラクタム抗生物質クレミマイシンの生合成酵素であるCmiS1は、Ⅲ型チオエステラーゼに分類されるが、単にチオエステルの加水分解を行うだけではなく、α,β-不飽和脂肪酸チオエステルである2-ノネノイルチオエステルに対しグリシンのMichael付加反応とチオエステルの加水分解反応を触媒する。CmiS1がどのような機構で触媒するかに興味が持たれた。CmiS1の結晶化には成功しなかったものの、その類縁酵素の結晶構造解析を行い、Michael付加反応とチオエステル加水分解反応の反応機構を明らかにすることに成功した。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定であるマクロラクタム抗生物質の機能解析については、順調に進んでいる。また、アミノグリコシド抗生物質の1種であるパクタマイシンの生合成酵素の機能解析では、生合成の鍵段階と考える窒素原子の導入機構の機能を明らかにすることが出来た。また、カナマイシンなどの代表される2-デオキシストレプタミン含有型アミノグリコシド系抗生物質に関しては、機能未知の酵素の機能解析を行っており、新たな知見が得られている段階にある。さらに、抗生物質ホスホマイシンの生合成経路を明らかにするなど、他の抗生物質の生合成酵素の機能解析も進んでいる。これらを考えるとほぼ予定通りに研究計画が進んでいると考えられる。
今後は、アミノ配糖体抗生物質の生合成遺伝子の機能解析をさらに進めて、それらの基質特異性の解明へと進めていく予定である。それらの結果を基に新規類縁体創製を目指す。また、マクロラクタム抗生物質生合成に関して、機能未知酵素の機能を明らかにすると共に、反応機構解析、基質特異性を明らかにする予定である。さらに、他の抗生物質の生合成に関する酵素の機能解析を進めて、生合成リデザインによる非天然型抗生物質創製に向けて、研究を発展させる予定である。
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