研究領域 | 生物合成系の再設計による複雑骨格機能分子の革新的創成科学 |
研究課題/領域番号 |
16H06452
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大利 徹 北海道大学, 工学研究院, 教授 (70264679)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 多価不飽和脂肪酸 / 生合成酵素 / 炭素鎖長制御 / チオエステラーゼ / ペプチドグリカン / アクチノマイシンD |
研究実績の概要 |
①多価不飽和脂肪酸(PUFA)生合成酵素の精密機能解析;昨年度、海洋原核微生物由来のエイコサペンタエン酸(EPA; C20,ω3)とドコサヘキサエン酸(DHA; C22,ω3)生合成酵素内に存在するketo-synthase (KS)/chain length factor (CLF)ドメインが、生産物の炭素鎖長制御に関与することを明らかにした。両酵素のKS/CLFドメインのアミノ酸配列は高い相同性を有するが、両酵素間で互いに異なり、かつ各々の酵素群で高度に保存されているアミノ酸残基が存在する。そこで今年度は、これらが炭素鎖長制御に関与するか検討するため、DHAのアミノ酸残基を対応するEPAの残基に置換した改変酵素を20作成した。その結果、2つの改変酵素がEPAのみを生産したことから、極限られた残基が鎖長制御に関与することが明らかになった。 昨年度、得られた知見を基に真核藻類由来のDHA生合成酵素のKSドメインに変異導入した結果、EPAをDHAと等量生合成する改変酵素を得た。今年度はCLF領域に変異導入した結果、よりEPAを多く生産する改変酵素(EPA/DHA比が1.7)を得た。 さらに、生合成の最終反応であるACP (acyl carrier protein)からのDHA/EPAの切り離しに関与する新規なacyltransferase-likeドメインを同定した。 ②新規アミド結合形成酵素(MurNAc-L-Ala-L-Glu synthetase);本生合成機構は、イネ白葉枯病菌が利用している。したがって、本酵素の阻害剤は特異的農薬になると考えられることから放線菌と糸状菌の培養液に候補化合物を探索した。その結果、アクチノマイシンDが本酵素を阻害することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度までに多価不飽和脂肪酸(PUFA)生合成酵素に存在し、ω3位の二重結合の生成に関与するドメインと炭素鎖長の制御に関与するドメインを同定した。今年度、鎖長制御ドメイン内の関与アミノ酸残基も同定した。また藻類のDHA生合成酵素に変異導入し、EPA/DHA比が1.7となる酵素も取得した。さらに生成物のACPからの切りだし機構も明らかとし、当初の計画以上に進展している。 イネ白葉枯病菌が利用している新規アミド結合形成酵素(MurNAc-L-Ala-L-Glu synthetase)に関しても阻害剤を探索し、アクチノマイシンDを得たことから、本経路が農薬のターゲット酵素になり得ることを示すことができ順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に引き続き真核微細藻類由来のDHA合成酵素の解析を行う。これまでに解析した原核微生物由来のDHA、EPA、ARA合成酵素はω3かω6の何れか一方のみを生合成するのに対し、真核微細藻類のDHA合成酵素は、ω3のDHAとω6のDPA(ドコサペンタエン酸)を併産する。したがって、原核微生物由来の酵素とは異なる制御機構の存在が示唆されるため、これまで用いてきた手法で解明する。今年度は基質の化学合成を試みルートを確立できたので、次年度は大量調製しin vitro反応で詳細な解析を行う。 また、今年度同様に、新規アミド結合形成酵素(MurNAc-L-Ala-L-Glu synthetase)の特異的阻害剤を放線菌と糸状菌の培養液に探索する。
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