研究実績の概要 |
昨年度、海洋原核微生物由来のドコサヘキサエン酸(DHA; C22,ω3)合成酵素、エイコサペンタエン酸(EPA; C20,ω3)合成酵素、アラキドン酸(ARA; C20, ω6)合成酵素を用いた精密解析により、炭素鎖長制御機構とω3/ω6導入制御機構を明らかにした。これら合成酵素はω3かω6の何れか一方のみを生合成するのに対し、原核酵素と相同性を有さない真核微細藻類のDHA合成酵素は、ω3のDHAとω6のドコサペンタエン酸(DPA; C22)を併産する。したがって、真核微細藻類のDHA合成酵素は、原核微生物由来酵素とは異なるω3/ω6導入制御機構を持つと予想されるため、これまで用いてきた手法で解明を試みた。真核微細藻類のDHA合成酵素は、OrfA, B, Cの3つの酵素からなり、OrfAとOrfBにケトシンターゼドメイン(KS)が存在する、また、デヒドラターゼドメインに関しては、OrfAにポリケチドタイプ(DH-PKS)が1つ、OrfCに脂肪酸合成酵素タイプ(DH-FabA)が2つ存在する。そこで最初に、これら全てがDHA/DPAの合成に必須であるか大腸菌を宿主に用いたin vivo 発現実験で検証した。ドメインの各活性アミノ酸残基をアラニン置換で不活化したところ、DH-PKS不活化株では生産性が低下したもののDHA生産性を保持していたのに対し、KSドメインのいずれか一方を不活化した酵素とDH-FabAのいずれか一方を不活化した酵素はDHA生産性を消失した。そこで、2つのDH-FabAドメインの機能の違いをin vitroで明らかにすることを試みた。アシル鎖合成が比較的容易な炭素鎖長4,6,8,12,18の各種アシルキャリアタンパク(ACP)結合アシル基質を調製し、2つのDH-FabAドメインを部分発現させた組換え酵素を用いて解析した結果、主に2つのうちの1つが殆どの基質に対して高活性を示した。今後、炭素鎖長10,16,20のACP結合アシル基質を調製し、もう一方のDH-FabAドメインが活性を持つかの確認実験が必要である。
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