計画研究
本研究課題では、「抗生物質ホルミシス」を様々な微生物に適用して休眠遺伝子を覚醒させることで、これまで得ることができなかった新奇な生合成マシナリーを開拓する。また、構造多様なヌクレオシド系抗生物質やペプチド系抗生物質などの生合成マシナリーも同定する。さらには、それらの精密な反応機構を解明するとともに、改変などを通して生物合成系を再設計し天然にはない化合物の創成を目指している。methylbenzene含有天然化合物の発見と生合成マシナリーの同定:「抗生物質ホルミシス」により放線菌Streptomyces sp. SANK 60404株において生産が活性化される新奇な2つのmethylbenzene含有天然化合物を開拓することに成功した。これらの化合物は、特徴的なmethylbenzene環とC5N(2-amino-3-hydroxycyclopent-2-en-1-one)ユニットを共通の部分構造としておりポリエン鎖の長さのみが異なっている。安定同位体標識した前駆体を用いたトレーサー実験から、両化合物はポリケタイド合成系(PKS)によって生合成されることを明らかにした。また、その生合成マシナリーとして既知のPKSとは異なる新奇な物質合成システムの候補を見出した。小タンパク質を介したアシル化反応の発見:カプラザマイシンは放線菌Streptomyces sp. MK730-62F2より単離されたジアゼパノン環を含むユニークな構造を持つヌクレオシド系抗生物質である。カプラザマイシンの生合成遺伝子クラスター中の各遺伝子の破壊株を作製し、その培養抽出液を解析することで生合成中間体と推測される化合物の同定を試みた。次に同定した生合成中間体候補化合物と、破壊した遺伝子産物の組換え酵素を用いてin vitro活性試験を行うことで各種酵素の機能同定と生合成経路の同定を試みた。その結果、生物活性に必須であるアシル側鎖の形成機構として、68個のアミノ酸からなる小タンパク質を介した新奇なアシル化機構を発見した。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、「抗生物質ホルミシス」により放線菌Streptomyces sp. SANK 60404株において生産が活性化される2つの新奇天然化合物を開拓することに成功した。また、その特異な生合成マシナリーを同定しつつある。さらには、ジアゼパノン環を含むユニークな構造を持つヌクレオシド系抗生物質であるカプラザマイシンの生合成における、生物活性に必須なアシル側鎖の形成機構として、小タンパク質を介した新奇なアシル化機構を発見した。以上のように、新奇天然化合物の開拓と新奇な生合成マシナリーを発見することができたことから、おおむね順調に進行していると判断した。
平成28年度までに同定された新奇天然化合物の生合成マシナリーの同定と精密機能解析を行う。具体的には、methylbenzene骨格を有するポリエン化合物の生合成マシナリーの同定と精密機能解析を開始する。methylbenzene骨格を含むポリエン化合物はpolyketide synthaseによって合成されると予想できるため、これらの遺伝子の大腸菌での発現による類縁体の生産や組換え酵素を利用した機能解析を通して、当該ポリエン化合物の生合成機構の詳細を明らかにしていく。ヌクレオシド系化合物の生合成マシナリーの同定と精密機能解析を実施する。具体的には、Streptomyces sp. SANK 60404株の生産するA-94964の生合成の精密解析を始めている。生産菌のドラフトゲノムシーケンスとバイオインフォマティクスを駆使し、さらには異種発現や破壊を行うことで生合成マシナリーを同定する。次いで、特に新奇性の高い生合成酵素については、組換え酵素を作製してX線結晶解析を含めた精密機能解析を開始する。放線菌Streptomyces sp. MK730-62F2が生産するカプラザマイシンの特徴的なジアゼパノン環形成機構に関与する生合成マシナリーを同定し、その生合成機構の詳細を明らかにしていく。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (20件) (うち国際学会 9件、 招待講演 4件) 備考 (2件)
J. Antibiot.
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1038/ja.2017.12.
10.1038/ja.2017.33.
Curr. Opin. Chem. Biol.
巻: 35 ページ: 117-123
10.1016/j.cbpa.2016.09.015.
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/biotec-res-ctr/saiboukinou/
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/biotec-res-ctr/saiboukinou/research/index.html