研究領域 | 生物合成系の再設計による複雑骨格機能分子の革新的創成科学 |
研究課題/領域番号 |
16H06453
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
葛山 智久 東京大学, 生物生産工学研究センター, 准教授 (30280952)
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研究分担者 |
白石 太郎 東京大学, 生物生産工学研究センター, 助教 (40734603)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 生合成 / 放線菌 / テルペノイド / ポリケチド / ホスホン酸 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、テルペン環化酵素CotB2の結晶構造の解明、放線菌の生産するポリケチドtrichostatin (TSA)の生合成マシナリーの解明、放線菌のユニークなテルペン合成酵素cyclolavandulyl diphosphate synthase (CLDS)の結晶構造と反応機構の解明、放線菌の生産するホスホン酸化合物fosfomycinの生合成酵素Fom1の機能解明に関する研究成果をあげ、学術雑誌に掲載することができた。CotB2の研究では、基質類似体ゲラニルゲラニルチオジホスフェートを結合したCotB2のはじめての高分解能X線結晶構造の解明に成功し、CotB2触媒作用の間の環形成および立体化学の絶妙な制御のための構造的基礎を提供した。ヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC)の阻害剤として生化学の分野で広く利用されているTSAのHDAC阻害活性には、ヒドロキサム酸基が重要な役割を果たすことが既に知られていたが、これまでヒドロキサム酸基がどのように作られるかは不明のままであった。今回、TSAを作るために必要な全ての遺伝子を同定し、それらの働きを解明することに成功した。さらに、遺伝子工学の手法を用いてTSAの高生産株を作製するとともに、組換えタンパク質を用いた試験管内反応によりTSAのヒドロキサム酸基を作るための新しい機構を提唱した。CLDSの研究では、ラベル基質を用いた試験管内反応によりCLDSの環化反応には分子内プロトン転位が関与することを示した。また結晶構造に基づく変異体解析において8番目のプロリンおよび173番目のフェニルアラニンが環化反応に重要な残基であることを示した。以上の結果から、CLDSの環化反応には基質の配置の制御が要因の一つとなっており、基質同士の接近が分子内プロトン転位反応を開始させ、続く環化反応を促進することを突き止めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、テルペン環化酵素CotB2の結晶構造の解明、放線菌の生産するポリケチドtrichostatinの生合成マシナリーの解明、放線菌のユニークなテルペン合成酵素cyclolavandulyl diphosphate synthaseの結晶構造と反応機構の解明、放線菌の生産するホスホン酸化合物fosfomycinの生合成酵素Fom1の機能解明に関する研究成果について学術雑誌に掲載することができたことから、順調に進展していると判断した。メチルベンゼン骨格を有するポリエン化合物の生合成マシナリーの精密機能解析についても、ポリエン化合物がポリケチド合成酵素によって合成されることを明らかにしており、平成30年度の研究に繋げることができた。ヌクレオシド系化合物の生合成マシナリーについても同定が完了しており、平成30年度から種々の生合成酵素についての精密解析に入ることができる。放線菌が生産するメロテルペノイドやアルカロイドについても、種々の生合成酵素についての精密機能解析に進むことができる状態になった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は引き続き、これまでに同定された新奇天然化合物の生合成マシナリーの同定と精密機能解析を継続する。具体的には、メチルベンゼン骨格を有するポリエン化合物の生合成マシナリーの精密機能解析を行う。昨年度までに、メチルベンゼン骨格を含むポリエン化合物はポリケチド合成酵素によって合成されることが判明し、これらの遺伝子を大腸菌で発現することができたので、今後は、これらの組換え大腸菌を利用した生産物の精製方法を検討し最適なプロトコルを決定する。次いで、それら精製した生産物の構造を決定することで、個々の生合成遺伝子の機能を明らかにする。また、ベンゼン環を生成すると予想している酵素の遺伝子を大腸菌で発現させることで、その機能同定を目指す。 ヌクレオシド系化合物の生合成マシナリーの精密機能解析を引き続き進める。具体的には、A-94964やカプラザマシンの生合成の精密解析を進める。生産菌のドラフトゲノムシーケンスとバイオインフォマティクス解析から得られた生合成遺伝子の情報を利用し、大腸菌で発現させた組換え酵素を用いて、個々の生合成反応を再構築し、反応機構を明らかにする。個々の生合成反応で必要となる基質については、それぞれの遺伝子破壊株を作製し、その遺伝子破壊株が蓄積する生合成中間体を精製することで調製する。 放線菌が生産するナフテルピンやフラキノシンなどのメロテルペノイド生合成過程において共通に存在するアミノ化と還元的脱アミノ化の生合成マシナリーの精密機能解析を進める。並行して、放線菌が生産するアルカロイドであるカルキノスタチンやラバンドキノシンの生合成マシナリーの精密機能解析を進めるとともに、鍵酵素についてはX線結晶構造解析も始める。また、昨年度に明らかにしたtrichostatinの生合成酵素のX線結晶構造解析を始める。
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