研究領域 | 生物合成系の再設計による複雑骨格機能分子の革新的創成科学 |
研究課題/領域番号 |
16H06454
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
山崎 真巳 千葉大学, 大学院薬学研究院, 准教授 (70222370)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | アルカロイド / リジン脱炭酸 / 代謝拡張 / 統合オミクス / カンプトテシン |
研究実績の概要 |
塩基性アミノ酸であるリジンは化学多様性と活性多様性に富むアルカロイドの生合成前駆体である。本研究ではリジンをアルカロイド生合成に方向付ける脱炭酸反応の導入による代謝拡張を試みた。リジン脱炭酸活性を欠くシロイヌナズナ(Col-0)にリジン由来アルカロイドを生産するホソバルピナス由来のリジン/オルニチン脱炭酸酵素(L/ODC)遺伝子(La-L/ODC)を導入発現させた。アグロバクテリウムバイナリーベクター方によりCaMV 35Sプロモーター制御下に置いたLa-L/ODC遺伝子を導入したT0種子を得、さらに選択培地での播種、培養土での育成と採種を経て、T3ホモ体を複数ライン得た。これらについてLa-L/ODCの導入と発現を確認した。発現量の多いラインおよびCol-0をそれぞれ1/2 MS寒天培地上で同時に育成した植物体について、代謝物変化をLC-MS/MSを用いたノンターゲット分析により解析した。その結果、リジン脱炭酸産物であるcadaverineの他にさらに酸化等の代謝を受けて生じたと推定される 5-aminopentanal, 5-aminovaleric acid, δ-valerolactamがL/ODC導入植物体に特異的に検出された。またcadaverineがアシル化を受けたN-acetylcadaverineとp-coumaroylcadaverine、5- aminopentanalの代謝物と考えられるpelletierineおよびslaframineと予測される代謝物ピークが形質転換体特異的に検出された。これらは外来酵素L/ODCによって生じたカダベリンがシロイヌナズナの内在性酵素により代謝を受けて生じた代謝物であると考えられる。 また、抗腫瘍アルカロイド、カンプトテシン生産するアカネ科チャボイナモリについて、統合オミクス解析の基盤となるゲノム解析を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、アミノ酸リジンからのアルカロイド生合成へ代謝方向付け段階のエンジニアリングにより代謝拡張に成功し学術論文として発表した。これは従来蓄積してきたリジン由来アルカロイド生産植物におけるリジン脱炭酸酵素の分子進化とアルカロイド生産能の共進化に関する基礎情報に基づく成果であり、一つの酵素遺伝子の導入によりアルカロイド非生産植物にアルカロイド生産能を付与できることをモデル植物を用いて実現したものである。これらの知見は今後より複雑な代謝系の構築や有用物質生産に応用ができると期待される。またこの過程で形質転換体において変動する代謝物のノンターゲット分析法および安定同位体投与により代謝前駆体からの代謝フローを包括的に明らかにする分析法を確立した。また、カンプトテシン生産植物チャボイナモリについて高品質ゲノム配列情報を得ることに成功し、今後の精密な統合オミクス解析およびゲノム編集等による遺伝子機能解析の基盤として利用できると期待できる。これらの成果は代謝研究における新しい応用展開のための重要な知見を含んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
塩基性アミノ酸リジンからのアルカロイド生合成へ代謝方向付け段階を触媒するL/ODCについては、タンパク質構造と計算化学に基づく予測からタンパク質工学を行い、基質特異性の分子機構を明らかにする。またオルニチン由来アルカロイド生産植物にL/ODCを導入することにより新規アルカロイド生産を導入し有用物質生産に応用する。カンプトテシン生合成については、従来のチャボイナモリ植物組織を用いたトランスクリプトーム解析により絞り込んだ生合成候補遺伝子について、ゲノム編集毛状根の代謝物解析による遺伝子機能解析を行うことにより生合成の全貌を明らかにする。
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