研究領域 | スクラップ&ビルドによる脳機能の動的制御 |
研究課題/領域番号 |
16H06457
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
鈴木 崇之 東京工業大学, 生命理工学院, 准教授 (60612760)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 神経生物学 / シナプス可塑性 / ショウジョウバエ / 前シナプス活性帯 / 膜タンパク質 / 視神経系 / 神経活性依存的 |
研究実績の概要 |
神経の結合部位であるシナプスには、神経の使われ方によって、活性電位の流れ方が変化する可塑性と呼ばれる性質がある。このシナプス可塑性のしくみを遺伝子レベルで解明するために、ショウジョウバエの視神経系を用いて、シナプス可塑性を光学顕微鏡で簡便に観察できる系を開発した。その過程で、後シナプス細胞の神経活性が前シナプス細胞側の活性部位に影響を与えているということが分かり、細胞間のフィードバックシグナルが存在していることが分かった。我々は、これがタンパク質である可能性が高いと考え、分泌タンパク質を中心に候補遺伝子を網羅的に探索した。その結果、ひとつにはシグナル分子WNTとその下流シグナル伝達経路を同定した。視神経系に発現のある膜タンパク質220遺伝子をスクリーニングし、可塑性に関与していると考えられる6遺伝子を同定した。その中でもある膜タンパク質に着目し、その解析を進めた。このタンパク質はイムノグロブリン・ドメインを細胞外にもつ一連の膜タンパク質群に属し、別のの膜タンパク質ファミリーと特異性をもって結合することが生化学的に示されている。この二つのタンパク質ファミリーの神経特異的な発現によりシナプスの特性が結合する細胞の種類によって色分けされ、制御が区別される機構があるのではないかと仮説を立て、それを検証しようとしている。これら膜タンパク質の変異体を、CRISPRを使ったゲノム編集により、作成し遺伝子の機能解析に着手している。また、ノックイン法により、目的タンパク質をGFPでタギングして発現細胞の特定や細胞内局在の可視化などを行っている。WNTシグナルとそれを取り巻く一連の膜タンパク質群がどのような相互作用の元に分子機能が統合され、シナプスの可塑性をコントロールしているのか、その全容を解明したいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
神経シナプスを神経活性依存的に解体する、いわばスクラップシグナルにかかわっているであろう6遺伝子を同定し、その機能解析に入っている。このことは、次のビルドシグナルを同定するという計画を順調に進める土台になる。また、WNTシグナルが解体シグナルを抑制していることが分かっており、この3本のプロジェクトを柱に研究を進めており、おおむね順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
HisTango法という手法を用いて、視神経細胞に接続する2次ニューロンを可視化することを試みた。その結果、光刺激の前と後で、接続している2次ニューロンが減少していることが判明した。ニューロンのアイデンティティもおおむね判明しているので、これを電気生理学的に接続が弱まっていることを証明することを現在試みたい。もし、成功すれば、刺激による脳内の神経接続の構造変化の機能的帰結を可視化することの希少な例となる。この分子システムが広く脳内で使われていることも視野に入れて研究を進めていきたい。
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