計画研究
大脳皮質視覚野では、生まれ育った環境に適した視覚機能を獲得するために、発達早期に一旦形成されたネットワークが、発達後期の視覚体験に基づいたシナプスのスクラップ&ビルドにより再編される。その過程で生じる機能と神経回路再編の分子機構を明らかにするために、平成28年度は方位選択性形成の分子機構に着目した。これまでの生理学的な研究から、個々の視覚野ニューロンの方位選択性は視覚体験以前から存在するが(遺伝的メカニズム)、視覚体験によって変化し得る(後天的メカニズム)ことが明らかになっている。本研究では、最初にこの遺伝的メカニズムの分子機構を解明し、次にそれが環境刺激、自発的神経活動によって修飾される機構の解明を目指すことにした。遺伝的メカニズム解明のために、予めArc-Venusを視覚野に遺伝子導入したラットに縦縞の視覚刺激を加えることにより、縦縞に反応する視覚野ニューロンをin vivoで標識した後、視覚野脳切片上でVenus陽性の細胞と陰性の細胞をパッチピペットにより集め、それらからRNAを抽出し、それぞれをRNA-seq解析にかけて遺伝子発現を調べた。最初にパッチピペットで細胞を吸引し、そこからRNA抽出、引き続くcDNA合成・増幅、次世代シーケンサによる解析の実験的手法の確立を目指した。まず、数個の細胞を吸引し、それらからまとめて処理して、その達成度を確かめた。その結果、パッチピペットの口径を通常の電気生理学的な実験に用いるものより広く設定させることにより、標識された細胞だけを効率的にピペット内に吸引する条件が決定された。それに基づいて、数個の細胞だけからRNA-seq解析ができる技術が確立された。
2: おおむね順調に進展している
特定の方位選択性を有する視覚野を蛍光タンパク質で標識する技法、ならびに少数の標識細胞を採取しその遺伝子発現を調べる方法論が確立し、概ね予定通りの進捗状況である。
少数の視覚野細胞からの遺伝子発現の解析手法を確立できたが、実験の本質的な精度をあげるためにシングルセルRNA-seqを行うことを目指す。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 4件、 招待講演 5件)
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