研究領域 | スクラップ&ビルドによる脳機能の動的制御 |
研究課題/領域番号 |
16H06461
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
柚崎 通介 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (40365226)
|
研究分担者 |
溝口 明 三重大学, 医学系研究科, 教授 (90181916)
|
研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
|
キーワード | 神経科学 / 小脳 / シナプス / 樹状突起 / 発生・分化 |
研究実績の概要 |
小脳神経回路においては、発達期から成熟後にかけてさまざまな破壊を伴う創造現象(スクラップ&ビルド)が観察される。まず、幼若プルキンエ細胞の複数の樹状突起は、生後8日目までに1本のみが選択的に強化されて残りは刈り込まれる。また生後8日目以降になり、プルキンエ細胞に入力する複数の登上線維が刈り込まれて、1本の登上線維が選択的に強化される。さらに成熟後においても、プルキンエ細胞の樹状突起上における平行線維と登上線維の支配領域は、それぞれの神経細胞の活動に応じて競合的に再編される。このような現象は、他の動物種や脳領域においてもさまざまな発達時期において起きることが知られている。そこでこれらの他の類似現象との比較を通して、「創造と破壊」が一体どのように連動するのか、発達期と成熟期でどのような原理が連続/非連続的に用いられるのか、といった問いに答え、スクラップ&ビルド現象の基本原理の解明を目的とする。
平成29年度は、前年度に確立した2光子顕微鏡を用いたin vivoイメージング法を活用することによって、引き続きプルキンエ細胞樹状突起の発達過程について検討を続けた。その結果、複数の樹状突起は一定期間まで破壊と除去が同時に進行する時期を経て、最終的な樹状突起が選択された後に急な成長スパートが起きることが分かった。また、この過程には神経活動による細胞内Ca上昇とそれに伴うカルモデュリンキナーゼの活性化が必要であることを初めて明らかにすることができた。さらにこのCa上昇にはグルタミン酸受容体活性化が必要であることも分かってきた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
幼若マウス小脳におけるin vivoイメージングは、呼吸による体動の影響を受けやすく、かつ脆弱であることに加えて、ほ乳中であるために様々な技術的困難さがつきまとう。前年度には同一プルキンエ細胞樹状突起発達過程を1週間にわたり経時的に観察する方法を確立した。本年度にはこのような樹状突起発達過程に関与する細胞外からの入力(グルタミン酸)および細胞内シグナリング機構(カルシウム入力とカルモデュリンキナーゼ)を初めて明らかにできた。当初の予定より内容が膨らんだために論文化は遅れているが、研究成果面では「当初の計画以上に進展している」と判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は以下の3つの研究計画を遂行する。 [計画1 樹状突起の選択的強化と除去機構] プルキンエ細胞の樹状突起発達過程におけるスクラップ&ビルド現象(単一の樹状突起の選択的強化と残りの樹状突起の除去)については、これまでに明らかにした細胞外からの入力(グルタミン酸)および細胞内シグナリング機構(カルシウム入力とカルモデュリンキナーゼ)の果たす役割についてさらに解析を進め、本年中に論文化する。
[計画2 入力線維の選択的強化と除去を担う分子基盤] プルキンエ細胞は幼若時には複数の登上線維とシナプスを形成するが、生後3-7日の間に1本の登上線維が機能的に強化され、生後8日目以降に強い登上線維がより強化され弱い登上線維は除去される。この過程において登上線維から分泌される補体関連分子C1qL1とその受容体であるGタンパク共役型受容体Bai3を介した細胞内シグナリングについて解析を続けてきた。この過程において、成熟後の小脳神経回路においてもC1qL1-Bai3が予期しなかった役割を果たしていることが明らかとなってきた。今年度はむしろ成熟後の解析を推し進める。
[計画3 成熟後のシナプス形成と破壊による入力線維の支配領域の再編] 補体C1qシグナルは統合失調症やアルツハイマー病における病的シナプス刈り込みに関与することが近年示唆されている。これまでにC1qが脳内で結合する受容体の性質が明らかになってきた。今年度はこれらの検討をさらに進め論文化を図る。
|