計画研究
小脳神経回路においては、発達期から成熟後にかけてさまざまな破壊を伴う創造現象(スクラップ&ビルド)が観察される。まず、幼若プルキンエ細胞の複数の樹状突起は、生後8日目までに1本のみが選択的に強化されて残りは刈り込まれる。また生後8日目以降になり、プルキンエ細胞に入力する複数の登上線維が刈り込まれて、1本の登上線維が選択的に強化される。さらに成熟後においても、プルキンエ細胞の樹状突起上における平行線維と登上線維の支配領域は競合的に再編される。「創造と破壊」が一体どのように連動するのか、発達期と成熟期でどのような原理が連続/非連続的に用いられるのか、といった問いに答え、スクラップ&ビルド現象の基本原理の解明を目的とする。これまでに2光子顕微鏡を用いたin vivoイメージング法を用いてプルキンエ細胞樹状突起の発達過程について検討を行い、複数の樹状突起が一本化する分子機構を検討してきた。この過程にはカルシウムチャネルおよびNMDA型グルタミン酸受容体活性化に引き続く、カルモデュリンキナーゼ(CaMKII)の活性化が必要であることを見出した。今年度は樹状突起ごとの局所的なCaMKII活性の必要性について明らかにするために、光照射によるCaMKII活性制御法を導入して検討を進めた。一方、平行線維-プルキンエ細胞シナプス形成には補体関連分子Cbln1が必要である。Cbln1は平行線維の軸索中に存在するライソソーム内に局在し、神経活動とともにライソソーム酵素とともに放出されることを見出しNeuron誌に報告した。ライソソーム酵素は細胞外基質を破壊することが知られているので、神経活動に応じて、細胞外基質破壊(スクラップ)とCbln1によるシナプス形成(ビルド)を協調して引き起こす新しいスクラップ&ビルド原理を提唱することができた。
1: 当初の計画以上に進展している
幼若マウス小脳におけるin vivoイメージングは、呼吸による体動の影響を受けやすく、かつ脆弱であることに加えて、ほ乳中であるために様々な技術的困難さがつきまとった。しかし本技術の確立に成功し、樹状突起刈り込み分子機構の解明を進めることができた。技術面での確立や、当初の予定より内容が膨らんだために論文化は遅れているが、本年度には論文化できるものと考えている。一方、シナプス形成分子であるCbln1が小脳顆粒細胞の軸索中に存在するライソソーム内に局在し、神経活動とともにライソソーム酵素とともに放出されることを見出しNeuron誌に報告した。ライソソーム酵素は細胞外基質を破壊することが知られているので、神経活動に応じて、細胞外基質破壊(スクラップ)とCbln1によるシナプス形成(ビルド)を協調して引き起こす新しいスクラップ&ビルド原理を提唱することができたため、当初の計画以上に進展していると評価した。
[計画1 樹状突起の選択的強化と除去機構] プルキンエ細胞の樹状突起発達過程におけるスクラップ&ビルド現象(単一の樹状突起の選択的強化と残りの樹状突起の除去)については、これまでに明らかにした細胞内シグナリング機構(カルモデュリンキナーゼ活性化)の果たす役割の因果関係について、光活性化カルモデュリンキナーゼ制御ツールを用いて明らかにし、本年中に論文化する。[計画2 入力線維の選択的強化と除去を担う分子基盤] プルキンエ細胞は幼若時には複数の登上線維とシナプスを形成するが、生後3-7日の間に1本の登上線維が機能的に強化され、生後8日目以降に強い登上線維がより強化され弱い登上線維は除去される。登上線維から分泌される補体関連分子C1qL1とその受容体であるGタンパク共役型受容体Bai3によるC1qL1-Bai3シグナリングは、このような発達時の登上線維刈り込みのみでなく、成熟後の小脳神経回路においても登上線維シナプスの再形成とその刈り込みを制御することが分かってきた。そこで計画1と計画2とを統合する形で、本年度も引き続き成熟後の神経回路に焦点をおき、C1qL1-Bai3シグナリング機構の解明を推し進め論文化する。
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