研究領域 | スクラップ&ビルドによる脳機能の動的制御 |
研究課題/領域番号 |
16H06463
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
内匠 透 神戸大学, 医学研究科, 教授 (00222092)
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研究分担者 |
萬代 研二 北里大学, 医学部, 教授 (50322186)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | シナプス / スパイン / モデルマウス |
研究実績の概要 |
興奮性シナプスは、神経細胞樹状突起から突き出たサブミクロンの突起(スパイン)上に形成される。スパインの数は形成(ビルド)と破壊(スクラップ)の動的平衡によって決まり、発達期に増加し成長後にゆるやかに減少することが知られているがその分子基盤は未解明である。申請者らは自閉スペクトラム症(ASD)モデルマウスに共通する所見として大脳皮質の錐体細胞でのスパイン形成と破壊が共に亢進することを見出した。本研究では、自閉症原因遺伝子とその下流に焦点を当て、大脳皮質でのスクラップ&ビルド機構の分子機序を明らかにし、行動解析やin vivoスパインイメージング法によってスクラップ&ビルド現象の破綻と高次機能障害との関係を解明する。 自閉症モデルマウス(patDp/+)のスパイン動態の変容(大脳皮質の錐体細胞でのスパイン形成と破壊が共に亢進すること)に関わる分子として、2光子顕微鏡を用いたスパインのin vivoイメージング法を用いて、ヒト15番染色体(15q11-13)父性重複領域に存在するNdnを同定した。また、発達期のマウスのプロテオミクス解析を系統的に行った。 分担研究者の萬代は本研究の過程で、Creドライバーマウスがfloxマウスとの交配によって、本来想定されない生殖細胞での遺伝子組換えを起こすことを見出し、その現象について共同研究を行い、その成果を報告した(Luo et al., 2020)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
発達期におけるシナプス後肥厚のリモデリング:生後発達期におけるマウスの脳のシナプス後肥厚(postsynaptic density, PSD)を調べ、そのタンパク質組成がどのように変化していくかを解析した。2、3、6、および12週齢のマウスの脳よりPSDを生化学的に精製し、質量分析による解析を行った。タンパク質の検出およびラベルフリー定量を行ったところ、2214タンパク質が全てのサンプルで検出・定量された。発達に伴って顕著な増加または減少を示したPSDタンパク質群の中には、シナプスの成熟や形成・除去に関わるとされる分子が多数見出された。よって、PSDにおけるこれらのタンパク質の増減は発達期のシナプスの数や形態の変化に寄与しているものと考えられる。また、今回得られたプロテオームのデータとトランスクリプトームのデータの相関を解析したところ、発達期におけるPSDタンパク質の量の変化は主に転写レベルで制御されていることが示唆された。 分担研究者の萬代は、アファディンによるシナプスの形成の分子機構の解明に取り組み、カドヘリンの膜裏打ちタンパク質のαN-カテニン、接着分子のNGL-3、PSD-95結合分子のMAGUINがその分子機構に関与していることを解明してきた。本年度はMAGUINのシナプスにおける生理機能を解析し、アファディン同様に少なくとも後シナプス性にシナプス伝達を制御していることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
【1】スパイン動態のin vivoイメージングと分子機構の解明 in vivoイマージングを指標として、patDp/+マウスのスパイン動態の変容に関わる分子としてNdnを同定した。シナプトソームを用いたプロテオミクス解析を行うとともに、Ndnのスパインでの機能解析を継続する。 【2】シナプス・細胞接着に関連する分子の機能解析 分担研究者の萬代は、後シナプスの形成におけるアファディンとMAGUINの機能と作用機構について分子レベルと個体レベルの研究をさらに推進する。また、プロテオミクス解析によって示唆された、ミトコンドリアを介したシナプスの維持機構について解明を目指す。
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