計画研究
初期受粉過程における種間障壁の実体解明を目的として、研究実施計画に記載した以下の3項目について研究を進めた。1)アブラナ科植物の花粉-乳頭細胞間で機能する種間障壁の実体解明:昨年度、雌ずいにおける和合受粉特異的遺伝子の発現を指標に遺伝学的探索を行い、その誘導能が低下した花粉を持つ変異株を7株取得した。今年度は、これら変異株と野生株とのF2後代の表現型とゲノム解析を行い、原因遺伝子の特定を進めた。その結果、nonsense変異として同定された候補遺伝子の一つが、タグラインの解析においても同じ表現型を示すことが確認された。また、本変異株の花粉は、in vivoおよびin vitroにおける発芽能が低下していることが示された。2)初期受粉過程で機能する種間障壁の全ゲノム関連解析による網羅的解明:昨年度、シロイヌナズナの第4染色体上に見出した種間障壁遺伝子候補をSPRI1 (Stigmatic Privacy 1)と命名し、詳細な解析を進めた。SPRI1は乳頭細胞で発現する4回膜貫通型タンパク質をコードしており、本遺伝子の欠損株は比較的遠縁のアブラナ科異種花粉を排除できなくなることが示された。また、自家和合性のシロイヌナズナは、本遺伝子の機能を繰り返し欠失していることが判明した。一方、本変異の有無に関わらずSRKを導入したシロイヌナズナの雌ずいはSP11を持つ花粉を排除することから、自家不和合性には関与しない遺伝子であることが示された。3)一側性の不和合性の実体解明:S-RNaseとSLFの相互作用の欠落は一側性の種間不和合性に関与する可能性が指摘されている。両者の相互作用を計測する系の確立に向けて、S-RNaseを酵母で発現させることに成功した。一方、SLFは異種細胞系での発現が困難であるため、花粉において異種SLFを機能性SCF複合体として発現させる方法の検討を進めた。
2: おおむね順調に進展している
当初計画した3つの研究実施計画は、すべて順調に進展している。特に2)において同定したSPRI1は、雌ずい先端において異種花粉排除のために機能していることが示された初めての分子であり、新たな研究の方向性を提示する重要な鍵分子となることが期待できる。また、1)において同定した花粉発芽に関わる因子についても、これまでに機能等に関する報告はなく、和合受粉過程の機構解明に貢献することが期待される。3)においては、これまで発現が困難とされていたS-RNaseについて、初めて異種細胞系での発現に成功した。SLFについても同種花粉での機能的複合体の発現には成功しており、両者の相互作用を測定するための基盤は整備されつつある。
今後は上記3項目について以下の研究を実施する。1)花粉-乳頭細胞間で機能する種間障壁の実体解明:和合受粉反応に異常を示す花粉変異株の原因遺伝子の一つが、花粉の発芽に必須の因子をコードしていることが示されてきた。本年度は各種生理・分子生物学的解析を通じて、本因子の和合受粉過程における作用点の明確化を目指す。2)初期受粉過程で機能する種間障壁の全ゲノム関連解析による網羅的解明:全ゲノム関連解析で抽出されてきたSPRI1と命名した因子は、雌ずい乳頭細胞で発現し、近縁種花粉を積極的に排除する種間障壁として機能していることが明らかになってきた。本因子は雌ずい乳頭細胞膜上で、花粉上の何らかの因子との相互作用を介して同種と異種の識別を行っていることが予測される。本年度は、各種生理・生化学・分子生物学的解析を通じて、この花粉側因子の性状を明らかにする。3)一側性の種間障壁の実体解明:ナス科およびバラ科植物の一側性不和合性の要因と推察されるSLFの異種細胞系における発現検討を継続する。また、花粉において異種SLFをS-RNaseに対する結合活性を保持した形で発現させるための手法検討も継続する。
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ライフサイエンス領域融合レビュー
巻: 7 ページ: eoo6
10.7875/leading.author.7.e006
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/seiyu/