初期受粉過程における種間障壁の実体解明を目的として、以下の3項目について研究を進めた。 (1) アブラナ科植物の花粉-乳頭細胞間で機能する種間障壁の実体解明:昨年見出した和合受粉反応に必要な花粉因子AtVPS13について解析を進めた。透過型電子顕微鏡による解析から、本遺伝子の変異体の花粉では、発芽時の脂質体と粗面小胞体の速やかな解離が起きない可能性を見出した。また、さらなる機能解析に向けて、CRISPR/Cas9を利用したノックイン法によりAtVPS13aの下流に蛍光タンパク質Venus遺伝子を挿入した。本融合蛋白質が変異体花粉の発芽能を相補することを確認すると共に、花粉の膜画分への局在性を確認した。 (2) 初期受粉過程で機能する種間障壁の全ゲノム関連解析による網羅的解明:種間障壁遺伝子SPRI1について機能解析を進めた。SPRI1は四回膜貫通型タンパク質であるが、その機能はホモログを含めてわかっていない。そこで、SPRI1に各種点変異を導入し、機能への影響を解析した。その結果、C末端の細胞内推定リン酸化部位をアルギニン残基に置換すると機能が損なわれることが示された。また、全ゲノム関連解析の継続により、新たな転写因子様種間障壁候補SPRI2を発見した。 (3) 一側性の不和合性の実体解明:ナス科における自己および異種花粉排除には、modifierと呼ばれる非S遺伝子座因子の関与が示唆されている。今年度、S-RNaseが正常に発現するにも関わらず花粉排除が起きない変異系統の解析から、新たなmodifier候補を同定した。また、今年度、X線結晶構造解析とMDシミュレーションによりアブラナ科の自家不和合性因子SP11/SRKの構造予測が可能となった。そこで、SP11/SRK遺伝子の重複により生じたと推定される一側性不和合性因子PUI1/SUI1について、構造・相互作用予測を実施した。
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