研究領域 | 植物新種誕生の原理―生殖過程の鍵と鍵穴の分子実態解明を通じて― |
研究課題/領域番号 |
16H06468
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
上口 美弥子 (田中美弥子) 名古屋大学, 生物機能開発利用研究センター, 教授 (70377795)
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研究分担者 |
松岡 信 名古屋大学, 生物機能開発利用研究センター, 教授 (00270992)
渡邉 信久 名古屋大学, シンクロトロン光研究センター, 教授 (70212321)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | gibberellin / GID1 / 進化 / X線構造解析 |
研究実績の概要 |
植物ホルモンジベレリン(GA)は、核内受容体GID1により受容され植物の成長を促す。申請者らが、シダ植物の造精器誘導がこのGID1-GAシステムを介することを 明らかにしたように(Science 2014)、GAは元来、生殖ホルモンとして機能していたと考えられる。さらに、我々はシダと被子植物GID1の構造を比較し、GID1と GAの共進化を提案した(Nature 2008). また、GAの不活化と合成酵素との間においては、生殖過程における進化的軍拡競争が起きていることが予想された。以上 の研究背景に基づき、我々はシダから被子植物までの様々な進化段階におけるGID1とGAおよび、GA不活化・合成酵素について構造と活性の相関を調べ、共進化の 分子機構を解析する。そのために、(1)シダから種子植物までの様々な進化段階におけるGID1受容体と多様なGA分子種との構造や結合特性の解析(2) GAの合成・不 活化酵素の結晶化と解析(3)DELLAタンパク質の構造解析(4) 生殖関連アソシエーション解析、を行う。 本年度は、(1)に関して、双子葉植物のGID1に関して、ループ部分の進化と感受性の関係について明らかにし、GID1の進化の全貌をまとめPNASに掲載された。(2)に関しては、不活化酵素の構造とそのタンパクレベルでの調節機構との関係を明らかにし、投稿論文を準備した。また、合成酵素、特に葯に特異的に発現するGA3酸化酵素1について酵素の構造の進化について調べた。(3)DELLAタンパク質については、共同で働くIDDタンパク質との共結晶構造のX線構造解析を試みた。(4)生殖関連のGWASでは、ジベレリンシグナル因子の1つであるSPYがイネの草型と穎果数を決める重要な因子であることを明らかにし、論文投稿を準備している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PNASに掲載されたGID1受容体の論文に関しては、ジベレリン受容体のシダから被子植物に至る構造的進化の全貌について示した論文である。イネにおいては、リガンド結合に関するアミノ酸すべてに関し、結合しないアミノ酸に変異したものを1つ1つイネに形質転換転換して、そのアミノ酸の意味を明らかにした。さらに、双子葉植物の進化に関しては、ループ部分が早く進化することで、DELLAタンパク質との結合力を変化させることで、GID1-GA-DELLAシステムのシグナル伝達をリガンド結合性を変化させることなしにシグナル伝達の感度を変化させたということがわかった。これらを通して、GAシグナル伝達の進化の全容を明らかにできたということで、大きな意味があると考えられる。 さらに不活化酵素や合成酵素についても、X線結晶構造解析が順調に進み、それぞれ論文投稿を準備している。 SPYについても、GWASにより、穎果数の変化したイネの原因遺伝子として単離することができ、投稿準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
本課題は、ジベレリンがイネの生殖過程においてどのように必要であるか、その有り様が、どのように進化してきたかを構造をもとに明らかにすることである。これらに関しては、関連するほとんどのタンパク質のX線構造解析に成功し、論文として投稿する準備をしている。 しかしながら、DELLAタンパク質については、我々が複合体を機能的に形成することを明らかにしたIDD転写因子との共結晶を行っても、今まだ構造解析ができるほどの結晶は得られていない。このことは、DELLAタンパク質がいろいろな転写因子とゆるく結合し、様々なシグナル伝達上で機能することと同義なのかもしれない。今後は、共結晶だけではなく、サーマルシフトアッセイによりタンパク質の熱変性を観察することによりDELLAの安定性を向上させる化合物をスクリーニングし、これらの化合物を添加し結晶化を行う予定である。
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