計画研究
「鍵と鍵穴」の障壁を超え、交雑により生まれたハイブリッド新種は、農業において積極的に利用されている。一方で、ハイブリッド新種が作成できたとして、その適応能は明らかではない。本研究では新たに生まれたハイブリッド新種が、どのような環境適応能を持ちうるかの予測法開発を目指す。そして、より望んだ環境に適応した新種の作成を効率化し、新種誕生の分子的なメカニズム理解につなげる。現在まで、ハイブリッド新種に関するオミクス適応能を解析するためのWet、Dryの解析手法を構築してきた。Wetな方法として、個々の遺伝子機能を明らかにするためには分子生物学的手法が有力である。その中でも形質転換による遺伝子機能解析は強力な方法であるが、倍数体植物で形質転換法が確立された植物は未だ数える程度である。そこで今回異質4倍体であるアブラナ科シロイヌナズナ属のArabidopsis kamchaticaにおける形質転換法を確立した。Dryな方法として、異質倍数体の遺伝子発現量を詳細に定量できるEAGLE-RCを開発した。今まで、開発してきたホメオログ(異なる親種に由来するホモログ遺伝子)の定量手法に比べ、エラー率が1/3程度になった。さらに、4倍体以外の6倍体などの定量も可能になった。さらに、異質倍数体の発現解析の手法を、リシークエンシングによるゲノムワイド多型解析に適用した。そしてArabidopsis kamchaticaの分布域全体をカバーする25個体を用いてゲノムワイドな自然選択のパターンを解析したところ、有利なアミノ酸変異の率がこれまで調べられた植物種の中でも高いことが分かった。このことは、倍数体化によって複数コピーをもつことで、片方がもとの機能を保ちながら他方が新しい機能を進化させることができるように進化可能性が上がったという理論を支持する。
2: おおむね順調に進展している
本課題の後半に向け、着実に必要な情報科学的、分子生物学的ツールの作成が進んでいるため。
異質倍数体の発現パターンやゲノムワイド多型パターンを2倍体親種と比較し、異質倍数体種分化の長所・短所の解明を進めていく。さらに4倍体で開発した手法を拡張し、3つの2倍体種が融合した6倍体パンコムギの倍数体種分化を解析する。さらに、領域内共同研究として高山班・土松班・東山班の金岡博士らと、倍数体種分化に伴う自家和合性の進化、自殖シンドロームの分子的基盤、生殖隔離機構、倍数体の環境耐性などの解析をすすめていく。
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