計画研究
高等植物の生殖過程には、「他の植物種と交雑することなく自らのゲノムを維持するシステム」が存在するとともに、種内の遺伝的多様性を保持する機構である自家不和合性(SI)に雌雄間自他識別システムがあり、これには、リガンド・レセプターという「鍵と鍵穴」が機能している。一方、「鍵と鍵穴」が機能せず、SIを失った複二倍体種も自然界には多く存在する。両親複二倍体種はSIであり、その種から合成した人工複二倍体種もSIを維持するのに対して、栽培化の歴史の中で選抜された自然複二倍体種は自家和合性(SC)に変化している。本研究では、この変化に着目し、倍数性・ゲノム安定性という観点から複二倍体種がSIからSCへと変化できる分子機構に関わる「鍵と鍵穴」を領域内共同研究として展開し、解明することを目的とする。さらに関連した「鍵と鍵穴」分子の機能解析も行う。本年度は、B. napusの受粉システムの変化を理解するために、自家不和合性を制御しているS遺伝子座のエピゲノム情報の調査を試み、表現型との連関を調査した。しかしながら、S遺伝座乗遺伝子の多様性のため、エピゲノムの取得が困難であり、S遺伝子座上遺伝子の発現で代替した。新規一側性不和合性については、PUI1, SUI1の対立遺伝子を市販の種子から調査し、基本、1つのゲノムに2つの対立遺伝子があることが理解できた。さらに、給水、花粉管伸長に影響を及ぼす変異体を見出し、それらの表現型、相互作用因子の同定を行った。アウトリーチ活動も行い、50件を超える出前講義等を行い、講義後の手紙に返事を書き、実施した小学校、高校の教員から高い評価を得た。
2: おおむね順調に進展している
B. napusの和合性とS遺伝子座上遺伝子のメチル化の調査を試みたが、明確なdataが得られなかった。その要因として、S遺伝子座上遺伝子が対立遺伝子間で多様性がありすぎることであった。そこで、急遽、遺伝子発現の定量化を試み、花粉で発現しているSBP, SP11との発現比較も行った。S遺伝子座上の遺伝子が発現していなくても自家不和合性を示すB. napusが存在し、その解析が重要であると判断した。PUI1, SUI1の対立遺伝子の多様性については、韓国・忠南大との共同研究を行い、地域的な多型についても実施することを次年度以降に可能な体制を構築した。給水、花粉管伸長に影響を及ぼす変異体については、多重遺伝子族であることから、多重変異体を作出し、機能を明確化することが判明した。また、東山班、高山班とのコラボも検討し、より専門性がある班との共同研究体制を構築できた。アウトリーチ活動については、仙台市教育委員会から感謝状を贈呈され、公式にこうした活動が評価されていると考えられる。
B. napusの自家和合性の遺伝学的な解析については、分離世代を用いた大規模遺伝子発現解析を行い、表現型と連関する遺伝子の調査を行う。PUI1, SUI1の対立遺伝子については、日本と韓国の比較、領域内での遺伝子重複など、S遺伝子座で検討された事項について調査を行う。B. napusとは異なる複二倍体種についても調査を検討し、B. napusの自家和合性の遺伝現象の普遍性を理解する。また、アウトリーチ活動を20件以上行い、国民への情報発信、社会貢献にも寄与する。
今年度は、関連したアウトリーチ活動を69件(4,443人)に対して行い、いずれのところでも盛況であり、次年度以降の継続を要請された。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 2件) 図書 (1件) 備考 (2件)
Genes Genet. Syst.
巻: 93 ページ: 209-220
https://doi.org/10.1266/ggs.18-00025
http://www.ige.tohoku.ac.jp/prg/plant/
http://www.ige.tohoku.ac.jp/prg/watanabe/